東京・品川駅前に位置する、都市型水族館「アクアパーク品川」。この夏、「花美アクアリウム by NAKED」(2016年4月22日~7月13日・会期終了)、「花火アクアリウム by NAKED」(2016年7月7日~9月30日)と題してシーズナルイベントを開催し、夏の水族館を美しい演出で彩ってきました。これらのイベントでは最新テクノロジーと水辺の生きものたちの競演が、子どもからお年寄りまで多くの観客の心を掴んでいます。館内の至るところに投影されているのが、3Dプロジェクションマッピングによる映像。これらの映像や館内に流れる音楽が、私たちのいわゆる「水族館」像とは異なる世界観を見せてくれているように感じます。
以前にportfolioで取材させていただきレポートをした、「花美アクアリウム by NAKED」。生きものとプロジェクションマッピングや音楽による演出がとてもマッチしていて、都会の喧騒や夏の蒸し暑さを忘れされてくれるような素敵な空間でした。現在開催中の「花火アクアリウム by NAKED」は、その花美アクアリウムよりも更にパワーアップ。まるで水の中の異世界に入り込んだようでした。
▶【会期終了】水族館×プロジェクションマッピングで都心の初夏を涼しく…アクアパーク品川で開催中「花美アクアリウム by NAKED」(portfolio)
▶花火アクアリウム by NAKED(アクアパーク品川)
これらのイベントを手掛けているのが、クリエイティブ集団のNAKED。多くの人がその世界観に釘付けになった東京駅の3Dプロジェクションマッピングや、約33万人を動員した2014年度の新江ノ島水族館「ナイトアクアリウム」を手掛けてきました。今回portfolioでは、現在開催中の花火アクアリウム演出プロデューサーであり、NAKED代表でもいらっしゃる村松亮太郎氏にインタビューさせていただきました。
水族館を“再価値化”する
村松氏:例えば、アマナとかアマナイメージズだったら、写真っていうイメージがあるじゃないですか。でもうち(NAKED)はどう見られているんだろうっていうのは、自分たちだとなかなかわからないんですよね。NAKEDといえばこれ、っていうのが無いというか、やろうと思えば、何でもしてしまうんです。我々は「クリエイティブカンパニー」なので、商品って創造性になるんですね、なので何か新しいものを創り出すというのは使命というか。僕はある種のトップ志向なところがあって、それは一番という意味ではなく、フロンティアにならないと創造性の仕事ってできないじゃん、という。だからフォロワーの気持ちではなく、うちの会社では根っこに何かを作り出すという気概がないといけないと思っています。
―新しいものといえば、水族館でプロジェクションマッピング、というのもNAKEDさんが初めて取り入れたものなんですよね?
村松氏:はい、そうです。今となっては水族館でプロジェクションマッピングをすることは珍しくなくなってきましたが、元はうちが新江ノ島水族館でやった「ナイトアクアリウム」が皮切りだったと思います。3ヶ月間・夜3時間のみ(18~21時)の開催で約33万人を動員しました。しかも都心ではなく、江ノ島まで連れてくるという(笑) あの時は、江ノ島は海の家の問題(夜間の音楽・飲酒等の禁止)があって、夜は人が少なくなってしまっていた。そこをどう活性化するかという目的もあったんです。この提案は新江ノ島水族館への自主提案でしたね。
▶新江ノ島水族館 ナイトアクアリウム(NAKED inc.)
―今までの水族館とは、何が違ったんでしょうか?
村松氏:僕らが知っているもともとの水族館というものと、違うエンターテインメントを創り出したんです。特に新江ノ島水族館は学術的なところが強い水族館なので、学校の遠足とか修学旅行とかそういったニーズの強いところだった。そこに、夜、デートたりうる全く別の水族館のあり方を創り出したのがナイトアクアリウムだったと思っています。単に水族館を装飾したのとは違うというか、水族館という場所を使って全く違うものをつくったというか。東京駅のプロジェクションマッピングも同じことですよね。東京駅という場所に、違うエンターテインメントを創り出したんです。水族館という題材をいただいたときに、自分たちという会社が関わると、どういう創造ができるのか、どういうものを掛け合わせて楽しませるのかというところもお客さんに求められる。そこの場所を理解し、どう調理するのか、今までの水族館の演出とは違う、水族館の”再価値化”という考え方になったんです。アクアパークにおいては、そういう意味で非常に相性のよいところでした。
水族館の常識を変えられる場所、アクアパーク
―アクアパーク品川は、他の水族館と何が違ったんですか?
村松氏:アクアパーク品川については、その場所自体がそういうコンセプトをもとにつくられているというか、施設の名前も「水族館」ではなく「アクアパーク」じゃないですか。なるほど、ここは単に水族館ということではなく、アクアパークという水族館をも超えたエンターテインメントをやりたいんだと僕は最初に理解させてもらって。あとはアクアパークは「都市型」なんですよね。競合はもはや他の水族館だけではなくて、映画館とか他のエンターテインメントも入ってくるんです。休日に何する?っていうものの選択肢に入るかどうか。いかにアクアパークを選んでもらえるかというところだと思うんですよね。
水族館の課題として、冬にお客様が減ってしまうというのは定説として言われていたように思います。そこを変えたのが(初めてアクアパークとコラボしたイベント)「SNOW AQUARIUM BY NAKED」だと思います。冬に水族館に行くという新しい常識をつくったんです。考え方としては、見てくださる方も、水族館に行くというよりイルミネーションを見に行く感覚に近いんじゃないかなと。あえて、雪の空間、寒い空間というのをブランディングしたんですね。冬だけど室内だから寒くないし、やはり水と光の相性はとても良いし、テッパンですよね。綺麗だし。水族館は当たり前ですけど、水だらけ。どう考えても綺麗になるな、と。
―音楽とプロジェクションマッピングに囲まれるバーの雰囲気も、素敵で綺麗な空間でした。
村松氏:そう、その中でもデートスポットとして重要なのが「バー」であろうと。水族館の中にバーがあるというのは珍しいですし、そのバーだけ取り出しても行きたくなるような空間がつくれないかなと考えていました。逆に、バーに行きたくてアクアパークに来てくれるという人たちがいてもいいと思いますし。
実は筆者がアクアパーク内で一番好きなスポット、コーラルカフェバー。村松さんが実現する水族館の”再価値化”というところでも大きな役割を果たしてるのは前述の通りですが、そこだけ別世界に来たような、没入感のようなものを感じます。お酒を片手に、熱帯魚やサンゴを中心とした海の生きものたちの姿を眺めながら、プロジェクションマッピングの花火を眺めながら、ゆったりと過ごせる空間です。
「コンテンツを作る際に特に大切にしたのは、入った時のインパクトです。このエリアにどの瞬間に入ってもインパクトを感じられるように、寂しい瞬間がないように意識しました」(NAKED技術担当者)という言葉通り、入った瞬間の思わず「おぉ…」と言葉を漏らしてしまうほどインパクトは絶大で、まずここで立ち止まってスマホを構えるという人の姿が多く見られました。
日本初のイルカ×ウォーターカーテン×プロジェクションマッピングが生まれたわけ
今回の「花火アクアリウム」一番の見どころは何と言っても、日本初となるイルカたちのダイナミックな技が魅力の「ドルフィンパフォーマンス」と、ウォーターカーテンとプロジェクションマッピングのコラボレーションです。このコラボレーションは18時以降にしか見られないのですが、平日休日問わず上演時間には多くの観客がパフォーマンス会場のスタジアムに集まります。中央のウォーターカーテンとスタジアム壁面に映像を投影するのは全6台のプロジェクター。360度、どこからでも楽しむことができるようになっています。また、イルカたちのダイナミックな技とプロジェクションマッピングがしっかり融合しているところもポイント。ストーリー性を大切にする村松さんならではの演出となっています。
日本初のコラボレーション故に、どこから観ても綺麗に見せるには…どうすれば”融合”と呼べるほどの一体感を生むことができるのか…検証に検証を繰り返し、パフォーマンスの実現までには多くの苦労があったということです。
「ドルフィンパフォーマンスと映像ショーがバラバラに組み合わさったものでは融合とは呼べないため、映像のイルカが水中に潜ったら、次の瞬間、本物のイルカが水面から飛び出す…など、開始すると最後まで自動で流れていく映像に合わせ、トレーナー側がサイン出しのタイミングを合わせることで、映像の盛り上がりに合わせて、イルカたちのダイナミックなジャンプを繰り広げるなど、コラボレーションを実現させました」(アクアパーク品川広報)
「明るさの調整には苦労しました。プロジェクターの選定も色々試しながら(最初の上演回は18時台で日も落ち切っていないので)高輝度のものを選ぼうということになりました。また映像でいうと、中央のウォーターカーテンでは光をさえぎることはできず突き抜けてしまうので、そういう前提で壁面に投影する映像も制作しています」(NAKED技術担当者)
―そもそも、ドルフィンパフォーマンスとプロジェクションマッピングの掛け合わせはどのようにして生まれたんですか?
村松氏:アクアパークさんとは年間単位で一緒に取り組みをしているというのもあって、単なる発注する・されるの関係ではなくて、こうしたいんですというリクエストというか相談を受けて、それをどう解決するか、みたいな。それこそ、冬の水族館に人を呼びたいというお話を受けて、じゃあ何ができるかな…って考えたりとか。夏はやはり水族館の季節というか、メインのシーズンに何をもってくるかというところで我々が提案したのが、ドルフィンパフォーマンスとプロジェクションマッピングのコラボでした。綺麗なバーをつくっても、花形はやっぱりドルフィンパフォーマンスなんですよ。なのでもう満を持してというか、ついにやっちゃう!?みたいな感じでした。日本一の、観たことのないパフォーマンスをつくろうと。
―実際に私が観に行ったときは、プロジェクションマッピングが投影された瞬間に「おぉ…」っていう歓声があがっていて、観る側の一体感みたいなものを感じました。
村松氏:そう、僕らが演出をする前に、やはりドルフィンパフォーマンスの魅力としては、一体感ですよね。観客の皆さんの一体感。今回はそこを大切にしました。だからその一体感をより演出できるものであれば、次はプロジェクションマッピングじゃないかもしれない。何を使ってもいいと思っています。
映画のように、そこにシーンをつくりあげる
村松氏:僕らはデジタルアートの人たちってみられるんですけど、あくまでそこに世界をつくりたいと思っていて。僕が映画監督出身なのもあるけど、映画のように、役者さんとかセットとかストーリーで、フィルムの中に世界をつくるような感覚なんです。それを現実世界に現すとどうなるか、どう表現できるかというところでデジタルツールを使用した、ということ。プロジェクションマッピングは、一つの道具ですね。表現の手法です。映像を撮るのにカメラの使い方を覚えるのと一緒で、我々は世界観をつくりあげるために、プロジェクションマッピングの活用方法を学ぶ、みたいな感じですね。
今まで(東京駅で行うまで)のプロジェクションマッピングは、ギミックとかグラフィカルな部分で魅せるものだったんですけど、そこに我々はストーリーと世界観をもたせました。10分間の映像ショーを作り上げようと思ったんです。多く反響をいただき、今となっては「あれがプロジェクションマッピングだ」というスタンダードになっていきましたよね。これも映画をやっていたという経験が生きているところなんですけど、(東京駅は冬場に開催したので)寒い中その場にとどまって見続けていただくには、ストーリーをもたせないともたないんじゃないかなと。
―余韻というか、観終わった後に誰かと感想を話したくなったり、やはり映画に近い感覚があった気がします。
村松氏:一つの世界とストーリーを体感をしてもらうという意味では、映画とかショーとかに近いもので、単にデジタルアートを順番に見せていくというのとはちょっと違いますよね。よく「空間演出」っていう言葉を使ってもらうことが多いんですけど、英語で直訳すると「space(スペース)」じゃないですか。というより僕は常々「scene(シーン)」をつくっているんです。シーンだと、空間ではなく情景。なので情景をつくっているっていう方がしっくりくるんです。それは、飲食店のプロデュースとか、水族館以外の演出でも共通していますね。後付けですけど、結果的に僕は「シーンメイカー」みたいなものになっているのかなと思います。
インタビューさせていただいて感じたのは、村松さんの自然体なお人柄でした。まっすぐ目を見て、身振り手振りを交えながら、飾ることなくまっすぐな言葉でお話いただけたのが印象的でした。普段も演出の際も、決して「飾らない」という村松さんの姿勢を表すような社名、「NAKED」。裸の心のままに、彼らが感じることを、どんな演出でどんな「シーン」として見せてくれるのでしょうか。
NAKEDでは今後もアクアパーク品川との連携を続け、季節ごとに演出を変えていく予定(NAKED村松氏)だとのことです。今回メインでご紹介した、「花火アクアリウムbyNAKED」は2016年9月いっぱいの開催となっています。まだご覧になっていない方は、お早めに。
取材協力:アクアパーク品川、NAKED inc.
アクアパーク品川 AQUA PARK SHINAGAWA
住所:東京都港区高輪4-10-30(品川プリンスホテル内)
営業時間:10:00から22:00(時期によって変更あり)
※最終入場は営業終了時間の1時間前
入場料:大人2,200円/小・中学生1,200円/幼児700円
http://www.aqua-park.jp/aqua/