イラストレーターとして50年以上のキャリアを持つ、上田三根子さん。発売から26年目を迎える薬用ハンドソープ「キレイキレイ」のパッケージイラストは、誰もが知る商品の顔となっています。

そんな上田さんに、長いキャリアの中で培われてきた仕事に対する思いや、ストック素材、AIによる自動生成イラストに対する考えについて、お話をお聞きしました。

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Profile

上田三根子(Mineko Ueda)

イラストレーター
神戸芸術工科大学 客員教授
パレットクラブ 講師
創形美術学校イラストレーション・絵本専攻 講師
埼玉県生まれ。魚座のA型。美術学校セツ・モードセミナー在学中、日本のファッション雑誌の黎明期から、雑誌イラストレーションの仕事を始める。以降50年以上にわたり、第一線で活躍する。明るい色使いと、オシャレなセンスは人気が高く、広告、書籍の装丁、ゲーム、キャラクター商品などに採用。現在は大学や専門学校でイラストレーションを教えるほか、雑誌のコメンテーターなど、幅広い分野で活躍中。東京イラストレーターズ・ソサエティ(TIS)会員。

Instagram @mineko.ueda
Twitter @minecou
Facabook  https://www.facebook.com/mineko.ueda

取材・文 :関 由佳
写真:Naohisa Kumagai(株式会社アマナイメージズ)
文中イラスト:上田三根子 / amanaimages

25年以上前のイラストでも変わらないし、古くならない

――ロングセラー商品となったライオンの「キレイキレイ」ですが、イラストが起用された時の経緯をぜひ教えてください。

扶桑社の「ESSE(エッセ)」という雑誌で長いこと仕事をしていて、ある時、読者の方を集めたトークショーのイベントを開催することになりました。そこで当時LION(ライオン株式会社)さんで発売していた「エメロンせっけん」に、私のイラストを載せたものがお土産のノベルティーとして配られたんです。それをLIONの方が気に入ってくださったようで、ESSEの編集長から、私のイラストを使った新しい固形せっけんの商品を作りたいという話が届きました。

通常、商品化する際には何人かのイラストレーターがピックアップされ、競合プレゼンがあって選ばれるものなのですが、この時はもう最初から私のイラストを使う、と決まっていました。「お母さんと子ども2人が、手をつないだ絵柄を作りたい」ということで、そこからたくさんラフを描きましたね。

1997年、薬用せっけん、薬用ハンドソープ、薬用ボディソープのラインナップで「キレイキレイ」ブランドがスタート。ちょうどこの年、O-157による食中毒の集団感染が社会問題になり、手洗いの大切さが注目され、ハンドソープがヒット商品に。もしO-157が流行していなかったらこんなに長く売れなかったかもしれないと思うと、何が転機になるかわかりませんね。

さらに、実写と3Dアニメが合体したCMが画期的だったことも、注目された理由の一つでした。私にとっても、自分の描いたイラストが動くって面白かったですよ。

でも当時の営業さんに「こういう商品は、売れないと3か月で棚からなくなる」と言われ、「私のせいで売れなかったらどうしよう」と、ものすごくプレッシャーでした。それまでボトルにイラストが描かれた商品ってあまりなかったので。当時はこんなに長く続くとは思っていなかったですね。

――2020年からのコロナ禍でも、手洗いが重視され、改めて上田さんのイラスト入りパッケージを見る機会が増えました。そんな「キレイキレイ」のイラストのデザインは、どう設定されているのでしょうか?

基本的に、お母さんとお兄ちゃんと妹という親子3人の形は決まっていますが、製品のコンセプトや、CMのストーリーで設定されているもの以外は自分の好きなものを描いています。最初の頃の絵は25年以上前に描いているのに、変わらないし、古くならないんです。これは私に備わっている才能かなと思います(笑)。

見る人それぞれにストーリーを感じられるイラストに

――イラストを描く時は、どんな思いやポリシーを持って臨まれていますか?

見た人が心地よく、不快にならないようにとは思っています。見ていて楽しいな、とか、フフッと笑みがこぼれるとか。1枚の絵から、「これはどんなシーンなんだろう」と、見る人の中でストーリーを続けられるような、絵にその人の気持ちが映せたらいいなと思います。

――膨大な量のイラストをお描きになっていますが、アイデアが枯渇することはないのでしょうか。描くためのアイデアは、どのようにインプットされていますか?

特別に、何か雑誌を切り取ってストックするとかはしませんね。映画を見たり、普段の買い物で可愛いものを見たりなど、生活の中で自然と、自分の中に入ってきます。好きなものはわりと決まっているので、自分の琴線に触れるもの以外は、目に入ってこないのかもしれません。

――イラストを書く時に意識していることは?

自分の中で、なんとなくお話を作って描いていますね。例えば、雑誌「フォアミセス(秋田書店)」の表紙を20年以上描いていて、毎月、自由に描かせていただいていますが、設定としてはお母さんと子どもたち、時々お父さんも登場します。季節感と合わせて、お母さんや子どもたちの服装や動きなど、すごく考えますね。お母さんがこんな服を着ているのだから、子どもたちにはこんな服を着せるだろうな、とか。

描き始める時は、下書き用の紙に、お母さんのポーズから描きます。お母さんが家事の合間に読書しているポーズにしようとするなら、子どもたちは、一人は一緒に本を読んでいるけれど、もう一人は遊びに行きたいってお母さんにおねだりしているとかね。

ただ、それはあくまで私が描く時だけのストーリーで、見る人はどう見ていただいてもいい、どの絵も感じ方は見る人次第だと思っています。

――「フォアミセス」の表紙イラストは、アマナイメージズにもストック素材としてご提供いただいています。ストック素材について、どんなイメージをお持ちですか?

もともとストック素材にネガティブな気持ちはなかったので、私のイラストを使っていただけるのならいいな、と思っていますよ。私の絵はだいたい1回使ったらおしまい、ということが多かったから、いろいろな方に見ていただく機会が増えて、もう一度、日の目が見られるのは嬉しいですよね。年齢的にも、昔みたいに寝ないで仕事して量産するのは、もう無理! だから、前に描いたものがまた新たに使ってもらえたら、それはありがたいなと思います。

人間ならではのプラスアルファがあるイラストは、AIでは予測が不可能

――上田さんに憧れてイラストレーターになられる方も多いと思いますが、これからイラストレーターになる方に、どんな思いがありますか?

今は東京・築地のイラスト専門スクール パレットクラブと、東京・池袋の創形美術学校で講師をしていて、神戸芸術工科大学では客員教授という立場です。ともに、イラストレーターを目指す方へアドバイスをしています。

学生さんに課題を出して提出してもらうのですが、こちらが出した課題をそのまま描くのは、簡単だけど面白くないですよね。そこからどう発展させて、自分のオリジナルの絵を作っていくかの工程が大事だと思います。例えば、「街のカフェで女の人がコーヒーを飲んでいる絵」だとすると、そのカフェの椅子はどんな椅子を使っているのか?とか、街にチラッと見える看板とか、小物だけでその街やカフェの感じがわかったりしますよね。あとは色のバランスとか、設定にプラスアルファすることで、自分のオリジナルができると思うんです。それが、伸びる人と、留まっちゃう人の違いかなと思いますね。

ただ、今の学生は技術がすごいです。技術的には私より上手な人がいっぱいいます。でもコンピューターはあくまで用具。ゲームやAIで作ったみたいなすごいイラストを作る技術は私にはないけれど、私の絵には別に必要ないと思います。それよりも、1枚の絵の中の色のバランスとか、パーツの選び方が重要ですね。

――話題になっているAI(Artificial Intelligence、人工知能)でのイラスト生成については、どのような印象をお持ちでしょうか?

私にはよくわからないから、「こんなことができるなんて、すごいな!」って感覚しかないです。私の絵をポンとAIに放り込んだらどういう絵ができてくるのかな、というのは、ちょっと興味ありますね。でも、たぶん、「やっぱりちょっと違うね」って思うだろうけれど(笑)。

イラストの中に、どんな配置でどんな色を選ぶかというのは、私の頭の中にしかないこと。AIで予測不可能ですよね。私の絵は線がシンプルだし、真似しやすいとは思いますが、小物とかの選び方は私の気分次第だったりする。やはりそこで差別化されると思います。

イラストの効果的な活用で、伝えたいことを上手に届けて

――今後、企業の方には上田さんのイラストをどのように活用して欲しいですか?

10代から初めて、この仕事を50年以上続けていますが、イラストレーターを「続けていけるな」と思えたのは、実は30代半ばになってからでした。当時は雑誌の絵が多く、表紙や、本文のイラスト以外にも洋服の作り方とか、料理とか、実用ページのイラストなどもずいぶん描きました。どう描けば見る人にとって分かりやすいかなというのは、常に考えていましたし、求められるものが100%なら、110%でも120%でも、依頼してくれた人をちょっとびっくりさせる何かをしたいなというのは頭にありましたね。

文字だけで伝わる情報もあって、添え物みたいに「スペースが空いたから何か入れよう」っていう考え方も、イラストの使い方の一つです。でも、文字情報だけで納まらないものを、絵で表現するためにイラストを使うこともあると思うんです。イラストは決して、単なる飾り、添え物ではない。イラストをうまく使って、会社や、その人の言いたいことを上手に伝えてほしいなと思いますね。

――本日は一流の発想をたくさんお話しいただき、刺激になりました! ありがとうございました。

アマナイメージズより:
プロフェッショナルな発想で、細やかなオリジナリティにこだわって長年クリエイティブ業界を牽引されてきた上田さん。誰もが笑顔になる明るく温かいイラストは、親しみやすく、広告や商品開発で強いアイキャッチになります。
そんな上田さんのイラストは、アマナイメージズから広告、出版、商品化、報道などにお使いいただけます。使用方法、検索などはお気軽にアマナイメージズカスタマーサポートまでお問い合わせください。

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上田三根子さん 2012年の過去インタビューはこちら
https://amanaimages.com/pickup/creatorsfile/creative/uedamineko121203.html?rtm=pick_uedamineko12120301

アマナイメージズ 上田三根子さんの特集ページはこちら
https://amanaimages.com/pickup/feature/creative/uedamineko120920.html