聞き手・文:チャーリー・パリッシュ(Telegraph Magazine)
訳・構成:アマナイメージズ portfolio編集部
今や全世界で5億人以上のユーザーを持ち、
1日に約8000万枚の写真がアップされるという「インスタグラム」。
創業者のひとりでCEOのケヴィン・シストロムが、
学生時代のことから、IT業界に進出するまでを語った。
豊かな人間の営みを求めて
私生活については、婚約者をほめる以上のことは話さない。シストロムと婚約者は、彼の妹も住むサンフランシスコに暮らしており、両親は相変わらずマサチューセッツで生活している。美食とコーヒー(朝のエスプレッソが唯一の儀式)、ときおり副業としてDJ、そしてアートと新しいテクノロジーをサポートすることが、彼の趣味だ。
これほど大勢のインスタグラムユーザーが世界中で交流していれば、影響のありかたもさまざまだ。インスタグラムで撮られた写真が『The New York Times』 と 『Time』の表紙を飾り、動画がテレビのニュース速報で流され、アーティストは待望の新作のビデオクリップをインスタグラムのフィードとして発表する。北朝鮮が3G回線になって以降は、キム・ジョンウン政権下の日常生活が検閲されていないまま見られるという、前例のない発信源となった。
ケヴィン・シストロム(以下、S)――僕らインスタグラムは、社交、興味、ブランド、セレブなどの側面をとらえることに、かなりの時間を費やしてきた。唯一いまだできていないのは、世界で起きていることをライブでとらえることだ。3億人が1日に70億枚の写真をアップするということは、実質的に世界がリアルタイムで中継されていることになる。ワールドカップを見たい、ファッションショーを見たい、東京のラテ・アーティストを発見したい…… これを僕らは、そこそこできている(ハッシュタグとロケーションタグで)。だけど、インスタグラムの中にはもっと豊かな人間の営みが眠っている。僕らはそれらの情熱や興味が、ちゃんと発掘されるようにしたいんだ。
これは簡単ではないと、シストロムは言う。なぜなら人々とインターネットとの関係は、常に変化しているからだ。
S――人々がどうネットを使うかについて、毎日新しい発見をしているよ。それは物事がどれだけ続きうるかという予想だったり、オンライン上にどれぐらいの期間、個人情報がさらされていてもいいのかの感覚だったり、オンラインで人々が期待する匿名性のレベルだったり、すべて難しい問題だ。インターネット界の「ニュートンの法則」はもう築き上げられたけど、この3年でそれが新しい法則の攻撃にさらされていると感じる。インターネットとともに育って、今あることはこの先もずっと続くと思っていた者にとっては、すごいことが起きてるんだ。オンライン上のふるまいが変化していることを示す、本質的な例がいくつか出てきている。
――例えば?
S――よりプライベートな場でコミュニケーションしたいという流れは、興味深い。テキスト・メッセージングがこれほど重要になるなんて、誰も思ってもみなかった。10年、20年前に比べ、人々がもっとつながっているという予想もできてなかったし、その結果が僕らのふるまい方に与えた影響も。おかしな自撮りを撮りたいっていう風潮が今ある。一方で、いつもつながっていたいけど、ただしもっとプライベートな方法で、っていう願望もある。僕が育ったときには、インターネットはパブリックに自分を発信することがすべてだった。パブリックとシェアするばかりだった。そうだろ? それが今変わってきている。インスタグラムにも結構な数のプライベートアカウントユーザーがいる。プライベートモードを作ってよかったと思ってるよ。
僕は起業家ではなく、ビジネスマン
成功した起業家たちは自分たちのことを「スタートアップ中毒者」と見なしている。夜遊び、ハイリターン、成功のきらびやかさにひかれている。シストロムはこのグループに属さないだろう。
S――僕は起業家ではなく、ビジネスマンだって思っている。理屈でいえばビジネスを創ろうと思ったら何かを始めないとならない、そうだろ? それか相続するっていう手もある。だけど、僕は投資に興味があるんだ。マクロ経済のトレンドにも興味があるし、既存のビジネスを学ぶのが大好きだ。僕はウォルマートの役員に加わっていて、とても大きな規模のビジネスについて学べるわけだ。31歳でフォーチュン誌ランキングのベスト10に入る企業の役員になって、半世紀商売を続けるってことがどういうことかを学べる人は、そうはいないだろう。それがつまり、僕のいうビジネスマン。たまたま僕はプログラムが書けて、ITが好きで、ITがたまたま成長いちじるしい産業だった。だけど、2年後にもし別の産業が成長産業になったとしたら、僕はそれに参入しているだろう。
彼特有の聡明でポジティブな方法で喋られると、すべてがとても思慮深く聞こえる。インスタグラムの印象にも近いものがあると伝えた。ポジティブなソーシャルメディアだと。
S――そう言われると、いつもいつもポジティブじゃないって反論したい気もする。パリのテロの後、事件を悼むメッセージがインスタグラムにあふれたけど、どうしたって痛ましい出来事だった。ただ一般には、みんなインスタグラムを使って発信するとき、不平不満をぶつけようとしたり、誰かをバカにしようとはしない。君が言ってるのは、誰かがインスタグラムを使おうとするとき、それはポジティブな意図があってのことだっていうことだと思う。だとしたら、それはとても素晴らしいことだと思う。
(終)