聞き手・文:チャーリー・パリッシュ(Telegraph Magazine)
訳・構成:アマナイメージズ portfolio編集部
今や全世界で5億人以上のユーザーを持ち、
1日に約8000万枚の写真がアップされるという「インスタグラム」。
創業者のひとりでCEOのケヴィン・シストロムが、
学生時代のことから、IT業界に進出するまでを語った。
学園祭のスーパースター
ケヴィン・シストロム(以下、S)――IT業界は面白い。僕ら創業者がみんな20代から30そこそこだからね。まわりが見えなくて、自分が何をやっているか分かっていないっていう点では、同世代の誰とも変わらないよ。
日々学習しながら、その場を取りつくろいながら、最善と思える選択をして前に進んでる。ただ僕らの場合、その過程で、世界を変えるような会社を生み出したってだけなんだ。
ケヴィン・シストロムは3億人のユーザーがいる写真共有SNS「インスタグラム」の共同創業者である。26歳のときマイク・クリーガーとインスタグラムを立ち上げ、そのわずか15か月後の2012年に、会社をフェイスブック社へ10億ドルで売却した。報道によるとシストロムは4億ドルを受取り、インスタグラム社のCEOに留まった。(今までどおり独立した体制でシストロムに運営させることを、フェイスブック社のCEOマーク・ザッカーバーグが約束したという)。
S――インスタグラムが素晴らしいのは「そこにある」ということ。写真がそこに留まる。つまり、いつか歴史家が今の時代を振り返って、何が起きていたのか、人々が何を見ていたのかを、自分と関わりのあることとして理解できるということだと思う。
彼の夢は壮大だ。「5年のうちにインスタグラムは、世界で何が起きているかのすべてを映す、公共の通信社のようになったらいいと思う」と言う。ザッカーバーグが「シリコンバレー高校」の「天才だが不器用な引きこもり」だとすると、シストロムは「学園祭のスーパースター」だ。
人をつなぐのが好きだった学生時代
1983年、マサチューセッツ州のホリストンで生まれたシストロムは、シリコンバレーに行くよう運命づけられていたようにも見える。父は東海岸の生活用品をあつかう会社の人事部門のナンバー2であり、母はIT業界のベテランだった。
S――母は起業ブームが来る前の世代の起業家だった。ドットコム・バブル(90年代末に起きたITバブル)のときには宣伝・マーケティング担当として働いていたんだ。はじめはmonster.com(ジョブサイトの先がけ)それからswapit.comという、CDを送るとクレジットがもらえて他のCDに交換できるっていうサービス。
母は45歳でスノーボードを始めるような、とんでもなくエネルギッシュでかっこいい人だよ。もし会ったら、母はかっこいいのに、息子はただのオタクだって思うに違いないよ。
成功したIT系起業家にありがちなことだが、シストロムも自分のオタクぶりを遺憾なくアピールする。マサチューセッツ州コンコルドのエリート全寮制校ミドルセックスで、コンピューターサイエンスとプログラミングに抜きん出ていたこと。不格好にやせっぽちでのっぽで、悲惨なファッションセンスだったこと。しかしもう少し深く話を聞くと、別の面も見えてくる。
S――エレクトロミュージックが好きだったね。DJをするのが楽しかったし、人をつなげられるから。ミドルセックス校時代はラクロス部のキャプテンで、陸上も好きだった。写真も好きで写真サークルの部長だった。そんなふうにみんなをつないでいたんだ。
――全寮制は楽しかった?
S――高校が楽しいっていう生徒なんているのかな? とても小さな学校で(全校生徒375人)、たぶん人よりきつい目に遭ったと思う。背が馬鹿みたいに高くて、プログラムに熱中しているオタクだったから。どう考えてもクールな若者ではなかった。
――僕にはオタクに見えないけど…… むしろ社交的に見える。
S――インスタグラム社が機能してるのは、そのおかげだと思う。よく言うんだ、僕はヤバイことができる程度にプログラミングが分かるし、会社を売りこめる程度の社交性は持ち合わせてるってね。起業するにはこの組み合わせは「鬼に金棒」だよ。
インスタグラム創業前夜
高校卒業後の経歴が、シストロムにさらに自信を与えた。ミドルセックス校を経て、カリフォルニアのスタンフォード大学に入学。3年の冬学期はフィレンツェで写真を学ぶ。そのときに、カメラをニコンからプラスチック製のトイカメラ「ホルガ」へ変えるようにアドバイスを受けた。ホルガの正方形のフレームは、そのままインスタグラムのトレードマークともいえる縦横比に引き継がれている。やがてスタンフォード在学中に、特待生としてメイフィールド・フェローシップ・プログラムのメンバーに選抜された。ITで起業するための専門的なノウハウを習得させるプログラムである。
S――それから僕はオデオでインターンをした。創業者のエヴァン・ウイリアムズとノア・グラスのためにね。ジャック・ドーシーは初めからそこにいたエンジニアの一人で、3か月の間、彼と机を共有したんだ。
「オデオ」はポッドキャストを録音し配信できるサイトで、創業者ウイリアムズとグラス、ドーシーとビズ・ストーンの4人は、のちにツイッターを創業する。言うまでもなくインスタグラム同様にSNSの代名詞的企業であり、数年後、彼らもインスタグラム社の買収を検討することになる。
2006年にマネジメント・サイエンスとエンジニアリングで理学士号を取得し卒業、グーグル社に入社して2年をすごす。はじめはGmail、Reader、Docsなどの製品まわりで働き、ついで事業開発チームに参加した。グーグル社を辞めたあとにはネクストストップ社で短いながら働く。2010年にフェイスブック社に買収された、旅先口コミサイトである。20代半ばの時点で、シストロムはすでに業界のもっとも重要な企業および人物たちと仕事をしていたことになる。(ちなみに在学中3年生のときに、フェイスブック社からスタンフォード大学を中退し入社するよう打診されたが、断っている。)
人々がインスタグラムに投資するようになった頃、投資の対象がサービスではなく、シストロム本人となる関係性ができあがっていたのだ。
(第2回に続く)
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