過去に歩んできた一歩一歩が、今のクリエイティブに生かされる。クリエイターにとって、発想の種とも言える、彼らのバックグラウンドについて迫る連載企画。第二回は、株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA) グラフィックデザイナー 竹尾太一郎さんです。

スタイリッシュで洗練されたものから、愛らしくて親近感を覚えるようなものまで、これまで彼が手がけてきたデザインはとても幅広い。いくつもの作品を見て「これは同じ人が作ったの!?」とつい疑ってしまうほど、まるでカメレオンのようにプロダクトに寄り添い、デザインを生み出しています。

留学、デザイン事務所、デザインプロダクションと、これまで重ねてきた経験から学べることは多いはず。そんな竹尾さんに、現在に至るまでのお話、そしてデザイナーという仕事への向き合い方について伺ってきました。

後編では、竹尾さんのデザイナーという仕事への向き合い方についてご紹介します。

成長するには好きなものを徹底的に真似ること

−−生活の中で、ものづくりに役立っていることはなんですか?

インターネットはすごく好きです。Twitterも比較的早くから始めていて。僕たぶんすごくミーハーなんです。世の中の流れを把握しておきたい感じです。好奇心旺盛で、常に情報がほしい。同時に、懐疑的な目を持つような天邪鬼でもありますが。

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−−色んな情報を入れていく上で困る面はないのですか?好きゆえに作風が似ちゃったり、影響を受けすぎてしまったり……。オリジナリティーを生むには弊害になりそうな気もしてしまって。

たしかにそういう側面はありますね。でも何の影響も受けていないものは世の中に存在しないと思うし、その時々で好きなものが似てきてしまうのはクリエイターなら仕方がないこと。むしろ、一度は好きなものをしっかり真似て勉強したほうがいいんです。

原さんのところにいたとき、初めのころ僕は日本語の文字組みがすごく苦手だったんですね。あるとき、細谷巖さんと秋山晶さんのキューピーの雑誌広告を「完璧に同じものを作ってみろ」と原さんに言われて。

−−そっくりそのままですか!?

はい。文字の位置が0.1mm でもずれないように、まったく同じものを作る。そうすると「こんなに字間詰まってたんだ」とか「写真と文字の感覚めっちゃ絶妙…」というのが初めて分かりました。

真似るんだったら細部まで完璧に真似た方がいい。中途半端に真似るのでは、分かった気になっているだけでほぼ分かっていないんです。完璧にトレースするのは時間がかかりますが、それをやることによって逆に短縮できる時間の方がすごいから。成長には真似することが必要だと思います。

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−−私は竹尾さんのこれまでの作品を見て、DeNA に入られる前と後で「まるで違う人がデザインしたみたいだ!」と思ったんです。それも情報を日々取り入れられているからなのでしょうか。

デザインプロダクション時代は、やっぱり原さんや川上さんのデザインが色濃くあって、彼らの理想をどう形にするかという意識があります。DeNA に入ってからは特に事業部の色を出すことを意識して取り組んでいます。サービスを立ち上げる段階から携われていると、デザイナーとしてどういった動きがベストなのかをすごく考えるようになりました。

自分の好みやテイストを出さないほうが絶対このサービスはいいなって思う瞬間がある。そもそも好みはあっても、自分の色なんて自分ではわかりません。もし、このサービスが生き物で、自らロゴを生み出せる存在だったら、こういうものになるだろうという感覚というか。

多くの人から好まれるデザインには必ず理由がある

−−デザインって人それぞれの好みなのかなって思うんです。それでもロゴだとかその商品やサービスの顔となるものは、幅広い人にうけなければいけない。フラットな目線を持って世に好かれるデザインを作るのは、とても大変なことではないかと思うのですが。

そうですね、好みだと思われがちですよね。でも良い悪いはただの好き嫌いではなくて、好きと感じるものには必ず理由がある。

ロボネコヤマト

※ロボネコヤマトはヤマトホールディングス株式会社の登録商標です。

例えば、ロボネコヤマトという名前を聞いただけでも、なにかしら言語化できるものがあるはずなんですね。ロボットだから、少し幾何学的なものなのかな…とか、ヤマトさんとの協業プロジェクトだからやっぱりきっと王道感があって…そんな風にどんどん言葉にして、イメージを膨らませていく。

everystar_gude
エブリスタ(小説投稿コミュニティサイト)のリニューアルのときは顕著でした。「みんながスターになれる可能性を持っている」というサービスコンセプトとエブリスタという名前から、星・地球・物語を考えるみんなの頭の中・吹き出しのようなイメージ…なんてあげていくと「じゃあこの形しかない」と腑に落ちるものになる。事業部のみんなと何度も話し合って形が出来ていきました。

そうやってできたロゴは、不思議とその背景を知らない人が見ても良い印象を与えられるものになることが多い。良いロゴとは、その名称ならこの形しかありえないと思えるロゴなんです。そういうものを作りたいと思っています。

制作物を見て「現場が楽しそう」だと思われる仕事を

−−確かに、今まで好きだなと思ったデザインは、自分の中のイメージとリンクしたものかもしれません。そのほかに竹尾さんが普段デザインする上で大切にしていることはありますか?

好きなアーティストの野田凪さんが言っていたことなんですが「誰かが制作物を見て、現場が楽しそうだなと思われるような仕事がしたい」と。それを聞いたときにとてもいいなあと思って。例えば、シンプルな文字組みだけのポスターがあったとして、見る人が見ると「うわーこの人すごく楽しんでるな」と思ってくれる。

そういう仕事ができれば、親にも自慢できると思います。写真でも文章でもそう。楽しい仕事をしようというのが前提にあるから、人も楽しませられるような良いコンセプトが生まれてくる。やはりなんにしても僕はエンタメっぽいのが好きで、そういうところは昔から意識しながら仕事をしています。

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若い子に気付かされた、若手クリエイター時代にやっておくべきこと

−−最後に、このインタビューは若手クリエイターの方も読まれると思うのですが、竹尾さんが若手クリエイター時代にやっておいて良かったと思うことを教えてください。

さっきの「真似るなら完璧に」というのは、やっておいて良いことだと思いますが、とにかく貪欲になった方が良いなと。

川上さんのところも原さんのところも、募集は特にしていないのに定期的に学生から働きたいと連絡があります。デザインの仕事はだいたい忙しいので、そんな電話をきっかけにバイトやインターンにきてもらうことはよくあります。

アルバイトは切ったり貼ったりパス抜いたりの単純な仕事ばかりだけど、現場を見ることができるのはとても勉強になるはずです。だから勇気を出して電話一本かける、常にアンテナを張っておいて、欲しいと思ったらすぐに取りに行く。これは僕ももっとやっておけば良かったなと思います。

−−これまでのお話を聞いて、かなり竹尾さん自身もそうされてきたように思うのですが……

いやもっとですよ。いきなり原さんとこに電話かけるなんてなかなか出来ません。それをやっていたら、もっと面白かっただろうなって。

うち(DeNA)にも、採用は落ちたけどバイトでもいいですと言って来てくれる人もいる。そういう熱意は本当に大事で、きっとこれからはそういう人が採用されるんだろうなと。やりたいことをするためだったら、どんどん飛びついたほうがいい。最近若い人が楽しんでいるのを見て気付かされました。

−−好きなことほど、立ち向かっていくのは難しいですよね……私もこれから積極的にぐいぐいどんどんやっていこうと思います。本日はありがとうございました!

うん、ぜひどんどんやってください。ありがとうございました。


穏やかな口調で、一つ一つ丁寧に答えてくださった竹尾さん。インタビューの中では、載せきれないほどの人物名や情報が詰まっていました。その常にインプットと向き合う姿勢が、多くの作品を生む理由なのだと感じます。
「誰かに影響を受けることを恐れないこと」
SNS などが普及して情報過多な今、日々より多くの情報を吸収し、咀嚼して新しい仕事に生かしていく。そういった姿勢はどのクリエイティブにも共通することなのかもしれません。

 

前編の竹尾さんの子どもの頃から、現在のDeNA に入社するまでのお話はこちら。

■竹尾太一郎 プロフィール
artless Inc.、日本デザインセンターを経て2015年よりDeNA入社。
企業・サービス等のロゴデザイン、ブランディングをはじめ、広告、パッケージ、サイン、UI、書体設計など様々な媒体の制作を担当。DeNAではオートモーティブ事業、スポーツ事業、コーポレート事業などのデザイン業務に従事する。