プロフィール:鍵井靖章
1971年兵庫県生まれ。水中写真家。大学在学中に水中写真家・伊藤勝敏氏に師事。1993年よりオーストラリア、伊豆、モルディブを拠点に水中撮影を行う。
1998年 第15回アニマ賞受賞(平凡社)「ミナミセミクジラの海」、2001年 ネイチャーフォト部門賞(講談社『週刊現代』主催)受賞、2003年 日本写真協会新人賞受賞、2013年 日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2013 ネイチャー部門優秀賞。
※この記事はamanaimages.comで過去に掲載されたものです
鍵井靖章さんにお話を伺いました
多数の写真集を出版し、TBS「情熱大陸」に出演するなど多方面で活躍する水中写真家、鍵井靖章さんにお話を伺いました。
──フォトグラファーを目指したきっかけは何ですか?
大学在学中に水中写真家の伊藤勝敏さんの写真展に行って「水中写真って面白いなぁ」と思って、弟子入りをしました。きっかけをくれたのは伊藤先生で、他には中村征夫さんの写真などにも影響を受けましたね。
プロとしてのスタートは1998年で、当時平凡社に「アニマ」という動物雑誌に「アニマ賞」という写真賞があったんです。例えば星野道夫さんとか昆虫写真の今森光彦さんとかが受賞されていて、当時では動物写真家の登竜門でした。その賞を、ミナミセミクジラの交尾の組み写真で1998年に頂いたこともひとつのきっかけになり、写真だけでやっていけるようになりました。
──印象に残っている仕事はありますか?
3年前に東北の海に潜ったことですね。水中写真家というのは旅行先の美しい海に潜ってクジラとかクマノミとかを写してくるカメラマン、というイメージじゃないですか。お気楽というか(笑)。けれど、震災後の海に潜ったことで、やっと僕の水中写真が社会と繋がった、という実感があります。
そもそも最初に被災地の海に潜ろうと思ったきっかけは、生き物が心配だったからなんです。震災直後は人間目線の報道しか無くて、実際海の中で生き物たちがどうなっているかという情報がなくて。僕はそれまで20年魚と向き合って生きてきたので、震災に飲みこまれた人間生活の写真だけじゃなくて、同時に海の中では生き物たちがそれでも生きている、ということを示したかった。それを週刊現代のカラーグラビアで実現できたんです。
──写真集についてお聞かせください
被災地の海を撮った時、写真集「ダンゴウオ―海の底から見た震災と再生―」を作りましたがそれと同時に「夢色の海」という写真集も作ったんです。被災地の海に潜れば潜るほど、淡い夢のような世界を求めるようになって、2年間であっちも作って、こっちも作って(笑)というのも、男と女とか、白と黒とか、対照的なものが存在する事でバランスが取れる感じで、被災地のドキュメンタリーと水中の淡い世界という2つの写真集の制作は僕の中でバランスをとるための作業だったんです。
4月には「ゆかいなお魚」(パイインターナショナル刊)というお魚が全部こっちを見て微笑んでいる写真集を出すんです。でも、実際は結構フラれてます。いっぱいフラれる中でいい出会いがあって、その時に写真を撮らせてもらってる感じ。僕は特別でも何でもなくて、ただ一生懸命いっぱい潜って出会いを作って、その時に写真を撮っています。僕のテーマはずーっと「魚と仲良くなる」ですから(笑)
──取り組みたい撮影テーマなどはありますか?
例えばクジラとかジンベイザメみたいに圧倒的な存在感で迫ってくる被写体も撮っていきたいけど、そういうすごいシーンって、お金を出せば撮りに行けるんですよ。そうじゃなくて、大自然ばかりじゃなくて、日常というか、もうちょっと身近な自然を撮りたいですね。いま僕が住んでいる神奈川県の海の魅力とか、そういう身近な自然や生き物もしっかり撮影して紹介していきたいです。実際、鎌倉の小学校で子供たちに鎌倉の海の魅力をスライドで見せたりしています。大きな自然も、身近な自然も、きっちり僕の視線の先にあってほしい。
僕はいま43才なんですけど、年齢を重ねるごとに日常の景色というか、身の回りのものをどんな風に見ることができるようになるか、挑戦でもあるし、楽しみでもあります。
──最後に、アマナイメージズと取り組みたいことや期待することはありますか?
作品を預けている一方なので、水中写真という表現方法を使って、アマナさんの舞台を使ってクリエイティブな事ができればいいですね。
あとは海外市場ですよね。淡い写真は海外ではうけないのかなと思うけど、ああいう写真って他の国のカメラマンって誰ひとり撮っていないので、違う市場でも活用してもらえる機会を作って頂ければと。
(2014年3月12日 インタビュー)