2022年11月をもってアマナイメージズ仕入部を退職し、引き続き当社のコントリビューターとして活動いただくことになった石井義信さん。
前回の記事では、ご自身のバックグラウンドや、のちにアマナイメージズと合併した自然科学写真エージェンシー「ネイチャー・プロダクション」誕生のエピソードなどを語っていただきました。
今回は40年間にわたり自然科学写真のプロフェッショナルとしてどのような思いでお仕事をされてきたか、また生き物の写真のあるべき姿についてお尋ねします。

子供向けの図鑑や雑誌に、ウソのない<本物の写真>を提供したい

ネイチャー・プロダクションは自然・生物の専門エージェンシーとして写真を取り揃え、クオリティー、信頼性が高かったことから、当時、色々な出版社が図鑑シリーズを立ち上げる際に多くの需要がありました。
特に2002年に創刊された「小学館の図鑑NEO」シリーズでは優先的に使用していただきましたね。
その他には幼児向け月刊誌各社、教科書・教材出版社との仕事は多く、販売の中心を占めていました。

—当時の写真はデータではなく、ポジフィルムですよね?

そう。ポジフィルムだから、現物をオフィスの棚にダーっと並べた何百個もの箱で分類していて。1箱ずつに、ポジシート(一覧性のある袋)に整理された数百点のフィルムが入っているわけです。
今はデータだから、画像も大きいし、パソコンでサクサク流して見ちゃいそうな感じがあるけど。当時は35mmのフィルムをシートのままで見ていて、しかもフィルム自体が小さくてよく分からないから、お客さんもいちいちルーペを覗き込んでちゃんと見るわけですよ。
それがお客さんの記憶に残ったり、印象に残ったりする感じがあって、また次に繋がったりと、その時代はその時代でよかったと思います。

—石井さんは、写真家になろうかと思った時もあったとか。

20代後半の頃ですね。元々写真も好きで撮っていたので、いろいろな作家の写真を見ていると、自分もやりたくなるじゃないですか。
ネイチャー・プロダクションで働いていた人の中でも、そこからフリーの写真家やイラストレーターになった人もいて、僕もその道へ行きたいという気持ちが芽生えてくることもあったんですよ。
でも長く働いていると、この世界でやっていくことの大変さが分かり過ぎて、踏み切れなかったところはありますね。

その上で、写真の需要を支える立場に徹しようと思ったのは、大学時代に取り組んだ自然保護問題に対する危惧があったからです。
当時の日本は、物質第一主義の気運が続いていて、ヨーロッパなどに比べると自然・環境に対する国民の意識がかなり遅れていたんですよ。
人間を含めて生き物が暮らす環境に目を向けて、自然保護的な考え方、捉え方というものを根付かせるためには、やはり子供の教育から時間をかけてやっていかないと。大人になってからの意識も変わっていかないな、と。
図鑑や子供向けの月刊誌、教科書、書籍に使われる生き物の写真って、子供はすごく興味を持ってくれるから。そういう場所にウソのない本物の写真を提供していくのは、自分の役目としてありなんじゃないか、という気持ちがありました。

作品を販売することが、写真家の作家活動の一助になるはず

2015年にアマナイメージズで制作したアプリ「PetitPedia(プチペディア)」、書籍とアプリが連携した、当時は新感覚の写真図鑑シリーズということで立ち上がったのですが、この準備が大変でしたね(※現在はサービス終了)。
アプリと書籍を並行して制作していたのですが、アプリの方が情報量が圧倒的に多い分、作業はとても大変でした。内容は濃いんですけどね。
植物、動物、昆虫のアプリ用のコンテンツ構築や写真セレクトをやったんですけど、植物は1,000種類、動物は500種類、昆虫は1,200種類以上入っていて、半端じゃない点数の写真が入っているんですね。

ネイチャー・プロダクション出身のスタッフで取り組み、追い込み時には休日返上で作業をして、ようやく完成することができました。
総力を結集したアプリということで、有料版は1,400円という強気の価格設定になりました。
高くても価値が分かるような人達をターゲットにしよう、と当時の上の意見で。
残念ながら結果として数は売れませんでしたが、レビューを見ると高評価が多く、買っていただいた方には満足してもらえたのかなという感じですね。

—写真の仕入れのお仕事で大切にしていたことは?

ストックフォトエージェンシーというのは「写真家の方ありき」という思いはありますね。
作品を販売することで写真家の方々への金銭的な還元ができるし、作家としてのアピールの場にもなるなど、作家活動の一助になればと思っています。
それが結果的に会社としての評価、業績にもつながるのではないでしょうか。
一方、仕入れ側では、しっかりと良い仕事に取り組んでいる写真家を見極め、作品の良し悪しを見る目が必要です。
図鑑、教科書・教材をはじめとした子供が見る媒体に、完成度が高くウソのない写真を提供し、世界の魅力、面白さを感じてもらえる。これも大事なことだと思います。
利用者側が「アマナイメージズに行けば、信頼のおけるしっかりした内容の写真が見つかる。相談すれば希望の写真を必ず見つけてくれる」、そう思っていただけることを大切にしてやって来ました。

生きている生物と対峙し、その空間に身をゆだね
写真という媒体で表現して欲しい

1975年にネイチャー・プロダクションが出した書籍「光の五線譜」(※前回の記事参照)がヒットしたことで、その後いわゆる「ネイチャーフォト」と呼ばれる分野の写真が数多く出てくるようになったんですよね。私はその頃から、写真の流れを50年近く見ていることになります。
その中にはボケやソフトフォーカスなどに依存しすぎて主体が見えてこない表現、フィルターワークやデジタルレタッチなどの機械的技術を多用しすぎて、現実とはかけ離れた生き物のイメージ写真など、いろいろありました。
「ネイチャーフォト」の言葉の定義は明確にはないのですが、個人的には生き物、自然物を撮っていればなんでも「ネイチャーフォト」と言われてしまう風潮にはどうしても抵抗感があります。

—「光の五線譜」の世界観とは何が違うんでしょう。生き物を写真で表現するために必要なことは何ですか?

「ネイチャーフォト」というのは、「本当の自然や生き物」を撮ること。そこに今、生きているものとちゃんと対峙して、その生きている様(さま)を写真という媒体で表現したいという気持ちが大切だと思うんですよ。
生き物が今ここに生きて、暮らしているという、あるがままの空間、時間に思いを馳せ、そこに身を委(ゆだ)ねる。その生き物の日常を表現するという行為なんだと思っています。
さらに言えば、生き物によってライフサイクルが違うわけで。昆虫など短い期間で世代を重ねるものもいますが、哺乳類、鳥類などでは寿命が数十年というものもいます。そんな世代年数が長いものは、人間側の1世代だけでは知り得ない、表現しきれない。2世代・3世代かけてやっとその暮らしが見えてくるという捉え方もあるわけで。
今の時代に、そんな時間をかけていられないかもしれないけど、そういう思い、姿勢を持っているかどうかで違うという気がしているんですよ。
写真家さんに対し、なんか勝手なことばかり言っていると思われるかもしれないけれど。40年間ネイチャーフォトを、何十万枚も選び続けてきた私からの、個人的な、そうあってほしいという願望として受け取ってもらえればいいかな。

—より良い生き物写真が撮りたい!という方にアドバイスはありますか?

鳥とか哺乳類は特にそうだけど、撮りやすい所に行ってみんなこぞってそれを撮るのではなく、「自分なりの場所」でじっくり取り組むみたいなやり方の方が、私は好きですね。
地元の裏山でもなんでもいいんです。一つの生き物、独自のフィールドに年月をかけて向き合う。そこから生まれるもの、表現されるものには説得力があって、伝える力があると思っています。
その生き物と向き合う時間や、空間の共有を意識して、多くの観察を重ねることが大切で、シャッターを切るのはその先にあるものだと思います。
そして、そういう姿勢でやっていけば、だんだん技術的にも向上してくるであろうし、完成度の高い良いものが撮れるようになってくるだろうな、と期待があります。
僕がそういう写真家たちの中で育ってきた人間だからということもあるけど、普遍的な考え方じゃないかと思うんですけどね。生き物を相手にしているからには。

(#3に続きます)※2023年2月公開予定

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