「写真とわたし。」第二回は5月からフリーランスとなった元アマナグループのフォトグラファー 金 洋秀(きむ やんす)さんです。
アマナ時代はアマナグループの株式会社acubeでアシスタントとして広告制作の現場を経験、主にシズルの映像制作を中心に活躍されていました。
SNSなどWebでのアウトプットも積極的に行う金さん。フリーランスとなった彼は現在、写真とどう向き合っているのかお話を聞いてみました。
「写真とわたし。」第一回目はこちら。

人の顔を撮れなかった大学時代


—-では、まずは写真を始めたきっかけを教えてください。

大学3年生まで音楽をずっとやっていました。
ですが、わけあって音楽活動ができなくなり、それまで常にあった自己表現の場所がなくなってしまい喪失感を感じまして。
そんなときに、大学では「カメラを持ってたらオシャレ」みたいなノリがあって、持っていたカメラを引っ張り出してカメラを使い始めました。
当時持っていたのはCANON EOS Kiss X5だったと思います。
久々にシャッターを切ってみたら「これはおもしろいぞ」と。
今でこそモデルの撮影などもしますが、当時は暗い風景とか人の背中かばかり撮っていました。
人の顔を撮れなかったんです。
音楽を辞めたあとで気持ちも落ち込んでいた部分があったので、あまり前向きな写真は撮っていなかったですね。
真っ暗な中に踏切がぼやっと写るみたいな写真とか、あと手の寄りなどのパーツばかり撮っていて、「部分カメラマン」なんて大学で呼ばれてました。

そんな暗い写真でも、撮り続けることで気持ちが整理できたり発散できたりして、
「これは音楽と共通する部分があるな」ってのめり込んでいきました。
暗い気持ちだと暗い写真になる、これも音楽と同じで自分を表現する手段なんだなって

 


—-今はどういった写真が好きですか?

自分が好んで撮る写真は、女性のポートレートやフードが中心で、あと空間も好きですね。
人間には欠かせない衣食住の写真を撮るのが好きだし得意です。
とは言っても、今撮っている写真で満足なんて全然していなくて。もともとコミュニケーションが好きなので、写真力より人間力でここまで来てしまった節も有ると思っています。
モデルやクライアントなど人とのコミュニケーションは写真にとって欠かせない部分ではありますが、写真力ももっと磨いていきたいですね。

見る写真については家族写真みたいな、家に眠っている成長記録とか学校のアルバムとか、リアルな写真に心が震えます。
細部まで作りこまれた広告写真も当然素晴らしいですが、子供の頃の写真とかって撮影した当時も楽しめますが、時間の経過によって何十年後でも楽しめますよね。
それはとても素敵なことで、自分の写真への気持ちの根底にはそういった想いがあります。
その写真を撮る背景があったり、シャッターを切る前後すらも写っているような、そんな写真が好きです。

何者にでもなれるし、何者にもなりたい


—-スマホの普及によって誰もが日常的に写真を撮る時代になった、と言っても過言ではないと思います。写真撮影の楽しみ方についてはいかがでしょう

これはもうやりたいようにやる!
これに限ります。自由に、楽しく。

それとたくさんの人に見てもらう。意見をもらう。
今はそれが簡単にできる時代なんですよね。よくSNSなどで写真を褒められても、謙遜しすぎて素直に受け止めきれていない方を目にしますが、撮った写真は堂々と胸を張って「作品」と呼んでいいと思います。
褒められたら素直に嬉しいし、好き嫌いは人それぞれなので気楽に、自由に写真を楽しんで欲しいです。
これはだめ、こういうのは違う、そんな言葉はナンセンスで。好き嫌いの世界ですから「自由にやりたいように撮る」でいいと僕は思います。


—-他人からの意見をもらう、という話が出ましたが金さんが写真を見せるときに緊張する人っていますか?

自分の尊敬しているプロの写真家がお二方いまして、彼らに見せるときは緊張しますね。
全部バレてしまうんですよね、姿勢や考え方とかが写真に写ってしまうし、そういったものを鋭く読み取って指摘が入る。それは怖い反面、すごく勉強になるのでありがたいな、と。
ただ、自分もプロの写真家として同じ土俵に立っているので、負けられないって気持ちはありますね。


—-プロとしてフリーランスになられたばかりですが、近い将来どうなっていたいなど理想はありますか

やはり…シャッターを押し続けたいとは思います。
カメラとかコンピューター、AIがどんどん発達して、いずれシャッターを押すという行為はなくなっていくと思います。
そうなったときに、コンテンツを考えたりディレクションができないとどんどん淘汰されていく。
僕は仕事としてSNSの運用やコンテンツの企画など、撮影に至る前段階や成果物の運用にも関わらせてもらってますが、もっとマルチに活躍できるようになりたいと考えています。
ただ、芯として写真家というのはもちろんあります。
人間力といいますか、僕が関わったら色んな人にきちんと伝わるクリエイティブになる、そういう付加価値の有る人間…そう…人間になりたいんですよね。フォトグラファーになりたいというよりは人間になりたい。
○○になりたいってわかりやすいんです、わかりやすい肩書きの職業って。ですが、それを目指してしまうとその枠の中に入ってしまってそれだけになるというか、そういうのを目指しているわけでもなくて。
何者にでもなれるし、何者にもなりたい。
そういう自分でいたいです。
言い換えると、キムヤンスという形、ブランドを育てていきたいって思っています。

口が裂けても楽だなんて言えない世界で楽しむ


—-金さんのブログの退職記事で「こんなに素晴らしいクリエイターがたくさんいるんだからもっともっと世の中の人々に知ってもらいたい」とありましたが、今後の動きとしてそういった視点での動きもされていくんでしょうか?

現状、クレジット表記などは一部の媒体ではありますが、ほぼほぼ業界関係者しか見ていないなって思っていて。
もっと前に出したいんですよね、一般の方にもわかるように噛み砕いて。
例えば女子高生が駅のホームで広告を見ながら「あのシズルいいよね、カメラマンXXさんなんだよね」みたいな未来、面白くないですか?

—-なるほど。人とクリエイティブの距離感については昨今のSNSぽさもありますね。

そうですね。SNSはアカウントありきなので「誰々の作品」って形の、人が前面に出たアウトプットになりますね。そして拡散・プロモートするのが上手な人が最近多いですね。そういった部分はまさに今プロが壁にぶつかっている状況なんじゃないか、と。
SNSに強いプロの写真家、少ないなと思います。
クオリティは出せるのに個人のプロモーション能力はあまり強くない。
でも逆に、SNS出身のハイアマチュアなカメラマンはプロモーションは上手でも、やはりクオリティで壁にぶつかる。

僕はもともとSNSを活用していた側の人間で、より知識や経験をしっかり身につけようと思い、アマナに入りました。
クオリティが出せて、SNSも理解している。テキストなど含めWebのアウトプットをきちんとこなせる。
そうなったときに、世の中の需要により多く応えられると思っています。
僕はそこを目指していきたい。

なんて偉そうに言っちゃって大丈夫ですかね …頑張ります。笑

—-プロの世界に入りたい人に向けて何かメッセージはありますか

大変なことは多いです。
口が裂けても楽だなんて言えない世界です。でも結局仕事なんて何をやっても大変ですから。
例えば、夜遅くまで撮影をしてボロボロになって、そんな帰り道に仲間と「作品撮りたい!」って話で盛り上がって。さっきまでずっと撮影してたのに。そういう仲間がて切磋琢磨できる、モチベーションの高さが求められる刺激的で楽しい世界です。
なので写真が好きならぜひ飛び込んでほしいですね。
疲れてボロボロになってもめちゃくちゃ楽しい。
もちろん、僕の出身のアマナはおすすめです。
たくさんの経験と学びがありました。

基本的にみんなクリエイターだと思うんです


—-話は変わりますが、今日は愛用のカメラを持ってきてもらっていますがその大きい彼は…

バケペンです。
(PENTAX67のことを通称バケペンと呼びます)
濱田英明さんの影響で手に入れて。
初めてちゃんとフィルムで撮ったのもこの子です。
大学時代これで死ぬほど撮りまくってました。

—-仕事とプライベートで写真を撮るときの違いはありますか

真剣さは同じですが、考える量は仕事の方が増えますね。
仕事ではディレクターやクライアントの正解と自分の正解をすりあわせていく。
プライベートは自分の正解だけでいいから気が楽といえば楽ですね。


—-日常でシャッターを切りたくなる時ってどんな時でしょう。

死生観っていうんですかね。
大学時代に僕に写真の楽しさを教えてくれた人がいて、その方が自分で命を絶ってしまった。その人との約束と言うか、意地みたいなものがあって写真を撮っている部分もあるんです。なんでもないことが幸せと言いますか、絶対にこの日常が明日も有るなんて保証はないじゃないですか。
なので、絶景!みたいなものより、日常のふとした瞬間を撮ります。
変わりゆく日常を大事に撮っていきたいって、そう思います。


—-では仕事として、今一番撮りたい被写体や光景ってありますか?
なんでも撮っていいよって言われたら…企業で言うと例えば無印良品さんでしょうか。
衣食住に関わるものが撮りたいです。
ファッションとか花のある仕事もいいけれど、僕はじんわりする写真が撮りたいです、

でも…

柴咲コウさんが撮りたいです!!笑
小学校の頃からずっと好きなんですよ。
あー…こんなこと言ったら「結局柴咲コウかよ」って言われそう。笑


—-では逆にこれは撮らない、って決めているものはありますか?

基本的にはないですね。
でも、ゴリゴリのバキバキな「超かっこいい!」みたいな、そういう写真って僕よりもっと得意な人がいるので、むしろ紹介したいなって思います。
そういった提案もクリエイティブというか、「良いものを作ろうと関わったひと」は基本的にみんなクリエイターだと思うんです。
僕らフォトグラファーは撮りました、作りました、という「作品」としてのアウトプットがあるからわかりやすいたけで、営業も企画も進行管理もみんな本質としてはクリエイターなんです。

近所のコンビニのおじさんがいい笑顔をするんですよ。あのおじさんの笑顔を見るとその日のモチベーションがガラッと変わるくらい。
モチベーションが変わるので、その日の撮影のアガリにも影響って有ると思うんです。そういう意味でもみんなクリエイターというか。
それくらいの気持ちでいます。だから僕はどんどん素敵な人を見つけてつなげていきたいです。
って、話が逸れちゃいましたね。笑


—-では最後に。この連載のテーマが「写真とわたし。」なのですが、金さんにとっての写真とは?

テレビ番組みたいで照れますね。
んー…可能性の塊、うん。可能性の塊ですね。
今って、スマホにはカメラが付いていますよね。
それってつまりは、誰もが素敵な写真を撮れる可能性がある、と。
写真を撮ることで何かが変わったり、写真を見ることで何か影響を受けたり、写真一枚にたくさんの可能性が詰まっているんです。
みなさん、もっともっと自由に写真を楽しんでほしいですね。

金 洋秀(きむ やんす)  写真家

1992年、奈良県香芝市生まれ。東京在住。2017年5月、フリーランスに。透明感のある世界観で写真・映像を中心に広告・雑誌・SNSなど幅広く活動中。
https://twitter.com/yansukim
https://www.instagram.com/yansukim

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