ナイルの恩恵を受けて発祥し、紀元前3000年頃に始まった「古代エジプト文明」。また世界最古と言われる「メソポタミア文明」は、現在のイラクの一部にあたる、チグリス川とユーフラテス川という大河の流域の狭間で生まれました。そこではシュメール王国、アッカド帝国、バビロニア王国、アッシリア帝国といった古代の国々が興亡を繰り返し、文明の遺物を築いてきたのです。
文明のゆりかご、と呼ばれる時代の遺物は、現在、かつてその文明が栄えた地に留まらず、広く世界中の博物館に収蔵されています。

世界中の博物館、美術館と強いネットワークを持つアマナイメージズでは、それら数千年前の人々の神秘に満ちた世界観、人類史の遺物の記録を、文明や国家というテーマごとに集め続けています。

その片鱗を、ぜひご覧ください。

 

文 :伊藤 章彦(アマナイメージズ『Portfolio by amanaimages』編集チーム Editor at Large)
写真:
(c) Trustees of the British Museum /amanaimages
(c) 2018. Photo Scala, Florence /amanaimages
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豊かな金と金工術ゆえに失われた古代エジプト文明の秘密

エジプト第18王朝、ツタンカーメン王の黄金のマスク。
所蔵:エジプト考古学博物館(エジプト・カイロ)

古代エジプト文明」聞いて多くの人が思い浮かべるのは、ツタンカーメン王ではないでしょうか。エジプト王国の王・ファラオは神の代理と考えられ、その統治は「神権政治」と呼ばれるほど強大で絶対的なものでした。
力ゆえに成された大事業も多いものの、強大な権力者の墓所は後世盗掘の恰好(かっこう)の的ともなりました。荒らされ、略奪されたことで貴重な記録のほとんどが失われた中、ほぼ手つかずで発掘されたツタンカーメン王の墓所は、今日、多くの副葬品、遺物とともに歴史の謎を解き明かすものとなっています

3000年にもおよぶ古代エジプトの中で、ツタンカーメン王の時代は9時代中の6番目の新王国時代」で全32王朝中、第18王朝最後のファラオでした。紀元前1333年頃即位したと伝えられています。
父王アメンホテプ4世の時代には、伸張し王家としばしば対立するような姿勢を見せた神官たちの勢力を削ぐべく、宗教改革が行われました。しかし、そのまま国内統治に力を注ぎ、戦いを避け続けるあまり、勢力を拡大していたヒッタイト王国にシリア・パレスチナ地方の属国群を奪われ、一時国力の低下をまねいてしまったと伝えられています。

他にも古代エジプト文明を知る鍵となる遺物の数々、アマナイメージズで取り扱う膨大なコレクションの中から一部をご紹介します。

エジプト第17王朝後期の王女でのちに王妃となる、スィトジェフティのマスク
所蔵:大英博物館(イギリス・ロンドン)

 

エジプト第19王朝時代、南方ヌビアの総督であったアメンホテプ・フイのピラミッド。
所蔵:エジプト考古学博物館(エジプト・カイロ)

紀元前3500年頃、王朝誕生前の古代エジプトにすでに存在したボードゲーム「セネト」
所蔵:エジプト考古学博物館(エジプト・カイロ)

エジプト第18王朝の第9代ファラオ、アメンホテプ 3 世の頭部
所蔵:バニョルシュルセズ博物館(フランス・オクシタニー)

エジプト第18王朝の第10代ファラオ、アクエンアテンの頭部(二重の王冠を持つアクエンアテン)
所蔵:サンプリースト博物館(イタリア・ローマ)

アメンホテプ4世として即位したが、在位4年後、先代ファラオ時代に王権を脅かすほどの力を得たアメン神官団の力を削ぐべく、唯一神アテンを主神に据える宗教改革を行った。この時、名を「アテン神に有益なる者」という意のアクエンアテンに改めた。

エジプト第18王朝、複合装飾を施した胸部の飾り。
所蔵:エジプト考古学博物館(エジプト・カイロ)

エジプト第22王朝の軍人、ニムロトのブレスレット。
所蔵:大英博物館(イギリス・ロンドン)

 

社会制度発達の著しさが見られるメソポタミア文明

 

メソポタミア文明の初期を構成し、文明の基礎を作り上げたとされるシュメール人未だ謎につつまれたところが多くありますが、居住の痕跡として紀元前5500年頃のものが確認されていて、その頃より農耕を始めていたことが分かっています。
食料供給の安定化は人口増加を支え、人口の増加にあわせて紀元前3500年ごろには集住化が進み、紀元前3300年頃には都市国家が形作られていきました。多神教であり、時代の支配民族によって最高神が変えられてしまうところがある一方で、社会の複雑化とともに、揉め事を仲裁するために「法」を成立させていった文明としても知られています。
紀元前2100年頃に制定された現存する最古の法典ウル・ナンム法典や、紀元前1750年までには制定されていたハンムラビ法典」が有名です驚くべきことに、はるか古代より客観性を備える社会を築いてきた文明なのです

メソポタミア文明を垣間見ることができる遺物の数々、アマナイメージズで取り扱う膨大なコレクションの中から一部をご紹介します。

メソポタミア文明、シュメール古代都市ウルの遺跡から出土した工芸品「ウルのスタンダード」。
所蔵:大英博物館(イギリス・ロンドン)

紀元前2600年頃の旗章(スタンダード)とされ、当時の軍制などを探る資料に
なるものですが、工芸品であることを除けばどこでどのように使う目的造られたは定かではありません。

メソポタミア文明のアッカド帝国期、ラピスラズリでできた円筒型の印章。
所蔵:大英博物館(イギリス・ロンドン)

メソポタミアの地には資源が少なく、周辺地域との交易により資源を確保する必要がありました。印章は交易の際、記録や契約などに使われていたものと思われます。

 

メソポタミア東部に起こったエラム王国による、アッシリアとバビロニアの円筒型印章でつくられた首飾り。
所蔵:大英博物館(イギリス・ロンドン)

エラム地方は、紀元前2700年頃に王国となりました。興隆と衰退を繰り返しながら、アッシリア王帝国とバビロニア王国の争いに、バビロニアを助ける形でたびたび介入。その頃に得た円筒型印章をつなぎ、首を飾る宝飾品をつくったようです。
エラム王国は紀元前539年にアケメネス朝ペルシアの支配下に入るまで、2000年の長きにわたってメソポタミアの一大勢力となり、その時代は「新エラム時代」と呼ばれました。

メソポタミア文明の新アッシリア帝国、翼のあるスフィンクスを描いた象牙の銘板。
所蔵:大英博物館(イギリス・ロンドン)

メソポタミア北部で起こり、やがて全オリエントを覆う帝国を打ち立てるアッシリアは、王権の安定や商人の活躍により、紀元前1950年頃からの残された文字資料が多く、文明の謎を知る手がかりとなっています。この遺跡は、翼のあるスフィンクスを描いています。エジプトでは神聖な存在とされたスフィンクスですが、アッシリア帝国においてはライオンの身体、人間の女性の顔にを持つ怪物、死を見守る存在と考えられていました。

新アッシリア帝国時代のセンナケリブ王に関する記録が刻まれた粘土
所蔵:大英博物館(イギリス・ロンドン)

ヒッタイト王国の、黄金と青銅の旗章(スタンダード)
所蔵:アナトリア文明博物館(トルコ・アンカラ)

メソポタミアの地の西、黒海と地中海に挟まれたアナトリア半島に紀元前1680年頃から紀元前1190年頃まで栄えたヒッタイト王国。その民がどこから渡ってきたものかについては、未だ明らかになっていません。紀元前14世紀半ばに絶頂期を迎えるヒッタイト王国の軍は、チャリオットと呼ばれる戦車/戦闘用馬車の実用化が早かったことがわかっています。このような旗章(スタンダード)が王や指揮官のチャリオットに据え付けられていたのでしょうか。

 

ヒッタイト王国の女神像。
所蔵:アナトリア文明博物館(トルコ・アンカラ)

アナトリア半島を中心に繁栄したヒッタイト王国の宗教は、北メソポタミアに居住していたフルリ人の文化や宗教に強く影響を受けているとされています。陶芸や治金術に優れていたとつたわるフルリ人は、強力な天候神テシュブを中心とした神々を信仰していました。女神というだけで定かではありませんが、もしかすると天候神テシュブの妻、地母神ヘバトかもしれません。

 

ご覧いただいたコレクションは、アマナイメージズで取り扱う博物館所蔵コレクションのほんの一部ですが、同じ文明や国の遺物であっても所蔵先はいろいろであることがお分かりいただけるかと思います。

博物館、美術館では、日々、学芸員たちによる遺物美術品の詳細な分類、情報付与が行われており、色調や質感の再現性に留意したデジタルデータ化が進められています。

お探しのものがデータ化されていなくても、アマナイメージズは世界の博物館、美術館に問い合わせることができます。博物館によっては、デジタル化されている収蔵品は、全体の0.1%以下ということも。お探しのコレクションがございましたら、ぜひお問合せください。有無を確認の上、デジタル化に必要なコストを含め調査、ご回答します。

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