プロフィール:名畑文巨
大阪府池田市在住。子どもポートレート専門スタジオなどで長年子どもの撮影に携わり、子どもといて感じる幸せな感情をテーマに独自の子ども写真を表現している。2010年にニューヨークで個展「Be Loved」(後援:在NY日本国総領事館、日本広告写真家協会)を開催。APAアワード2009 日本広告写真家協会公募展 写真作品部門 文部科学大巨賞、The Art of Photography Show 2011(USA)奨励賞受賞。
※この記事はamanaimages.comで過去に掲載されたものです
名畑文巨さんにお話を伺いました
子どもの撮り方をまとめた本「”世界一わかりやすい”デジタル一眼レフカメラと写真の教科書」が好評の名畑文巨さんに、子ども写真を撮る秘訣や制作秘話を伺いました。
──子ども写真撮りを始めたきっかけは何ですか?
写真を始めた30年前、子どもの写真といえばお宮参りや記念写真の昔ながらの写真館しかありませんでしたが、僕が入ったのは外資系の子どもポートレート専門スタジオでした。百貨店やスーパーでセットを組んでイベント形式で撮影するのですが、”あやして撮る”というやり方が取り入れられていて、その中で自分なりのテクニックを覚えていきました。その後、別の写真館でも経験を積みフリーになりました。
──本格的に子ども写真の作品を撮り始めたのはどういう経緯だったのですか?
最初は全く無名だったし、インパクトを出さないと認められないと考えたとき、水中で撮ってみようと思いついたんです。スイミングへ行っている子どもをスカウトして、プールに潜ってもらい、カメラに向かって目を開いてニカッと笑っている写真を撮ったんです。そんな写真は当時どこにもなかった。そう、僕が最初だったんですよ!それを印刷会社に見せたら、見たことない!ってびっくりしていました。そして季節を揃えてカレンダーの12社コンペに出してもらえることになり、それが通ったんです。そこから方向性が分かった気がします。それまで世の中には間に合わせの子どもを使って作ったような写真が溢れていたけど、子どもとコミュニケーションして”あやして撮る”という自分の作品にニーズがあった、と。
──APAアワード 文部科学大巨賞受賞作品はどのようにして出来たのですか?
受賞作の”バトル オブ ザ ナツヤスミ”は賞を狙うために作ったんじゃないんですよ。撮ってみたいという情熱で撮りました。浴衣の子どもを撮る機会があって、小道具の金魚をビニールに入れて”今、金魚捕ってきたよ”っていうシチュエーションで撮っている時に、ふと見たら袋に入っている金魚がカメラを見てたんです!それで、金魚の方にピントを合わせたら金魚にも主体性が出てきて、次は金魚すくいをテーマにしようと思いついたんです。でも、普通に横から撮ると金魚は小さくしか写らないし、金魚に主体性をもたせようと考えたら、下から撮ることをひらめきました。
あれが出来たときは自分の想像を超えていて身震いしました。ちょうど、APAアワードの募集テーマが「活」だったので、ぴったりだと思って応募しました。大賞受賞の連絡をもらったときは、椅子から転げ落ちましたね(笑)
──どういったことが評価されて受賞されたのですか?
広告写真は前例に縛られて、行くところこまで行って、きれいで完璧な写真がたくさんあるけど、一線を越えていない。そういう中で、既成概念を越えて価値を与える作品だと講評されました。
以前、よく子どもの写真だけでやっていけますねと言われたことがありましたが(笑)、思えば、そういうジャンルが無かったんですよね。風景写真、水中写真とかは第1人者がいて、みんなそれを目指している。でも子ども写真は自分で開拓していくしかない。それまでのカレンダーや写真集になるような子ども写真は大抵外国人だったし、日本人の子どもというカテゴリーが無かった。でも仕事として成り立つかどうかじゃなくて、子どものエネルギーを伝えたいなっていう想いの方が強かった。志です。世の中を変えたいという志。
──先日出版された本が好評ですね!
最初に「”世界一わかりやすい”デジタル一眼レフカメラと写真の教科書 しあわせ子ども写真の撮り方編」を出す話があった時、僕がこんなネタがありますよと話したら、編集者は「それすごいけど、名畑さん、それ全部書いたら真似されますよ、どこまで書きますか」って。でも僕は「いえ、全部出します」って言って。僕が撮ることで家族が幸せになったり、見た人が元気になったりするけど、自分だけだと年間で十数名しか撮れない。でも撮り方を教えることで、しあわせな写真が世の中にもっと増えてエネルギーが伝わっていく、そういう想いがあったんです。
──しあわせを引き出す”あやし方”の丸秘テクニックの全てが詰め込まれていますね。
子どもって、いきいきしている時ってよそ向いているんですよ。熱中してプラモデル作るときは下向いているじゃないですか。そういういきいきとした顔って正面から撮れない。じゃ、どうやって撮ろうかなって考える。花畑で子どもが虫を見つけて遊んでいる時、虫の目線で撮るために、魚眼レンズを付けたカメラを葉っぱの間に置いて、子どもに見に行かせる。そして子どもがカメラを見つけた時にニカっと笑う仕掛けをするんです。カメラの横にお菓子とか好きなキャラクターのおもちゃを置いたりして。この本では写真の撮り方だけでなく、しあわせを感じる写真を残してあげることはパパやママ自身のためでもあることを伝えています。
──今後の展望や目標はありますか?
作品として僕が表現したいことを発表する場がなかなか無いのですが、それでも2010年に開催したNYでの個展や、2011年にサンディエゴの公募展The Art of Photography Show の奨励賞を受賞で、伝わるものがあるんだと感じました。
APAの受賞後、”バトル オブ ザ ナツヤスミ”の一連の写真をホームページで公開したら、海外からのアクセスが急激に増えたんです。そしてNYの日本クラブという日本文化を紹介する団体が作品に興味を持ってくれて、写真展を開催することになりました。言葉も文化も違う海外で受け入れられるか不安がありましたが、隣の州から3日連続で見にきてくれた人もいたんです。また、サンディエゴの公募展は、世界72カ国から15,000点以上の作品が集まるなか、奨励賞に選ばれました。このようなアート系コンペに出品される作品は社会的でシリアスなものが多いですが、僕のポジティブなイメージの作品が選ばれたことで、伝えられることがあるんだと実感しました。
背景も何もなくて、子どもの表情だけ子どものエネルギーだけを伝える写真の表現は、広告ではニーズがあるけれど、そういう写真が作品として成り立つようなジャンルが作れたらいいですね。
(2013年8月31日 インタビュー)