2016年8月20日(土)に開催された、AQUENT主催のトークセッションイベント「SpeakSparkTokyo」。各業界の第一線で活躍される方々を迎え、過去・現在・未来という角度から、多角的にメディアと広告を考える10のトークセッション・ワークショップが実施されました。

我々portfolio編集部では、その中でも「今日までのメディア 明日のメディア」というセッションに参加。「ZIP!」など情報番組をはじめとするテレビ番組の新しい形をつくってきた元日テレの敏腕プロデューサーで現在C Channelのクリエイティブを統括されている三枝考臣氏(以下敬称略)と、思わず読んで思わず笑ってしまうようなニュースを発信し続ける「ロケットニュース24」の編集長GO羽鳥氏(以下敬称略)が登壇。
「メディア」とは何なのか・メディアが置かれる環境の変化・これから大切にすべきことなど、メディアに携わる人は聞いておきたい運営に関するお話や裏話、そして発信していくにあたっての思いなどを、登壇者お二方のご経験の中から伺うことができました。



■登壇者

三枝 孝臣 株式会社アブリオ 代表取締役社長 / C Channel株式会社 取締役 CCO
1989年日本テレビ入社。バラエティ「夜もヒッパレ」「さんまSMAP」ドラマ「明日があるさ」情報番組「スッキリ」「ZIP!」等の企画、演出、プロデューサーを担当。2014年「Hulu」制作部長、インターネット事業担当部次長を経て2015年独立。株式会社アブリオを設立、C Channel株式会社取締役に就任。

GO羽鳥 ロケットニュース24 編集長 / 迷惑メール評論家
東京都出身。漫画もイラストも描けるうえに記事もコラムも書けるオールマイティー型。2014年4月よりロケットニュース24編集長に就任。調理師免許所持。海外旅行が大好き。スポーツ全般、格闘技全般、バイク事情にオカルト事情……とカバー範囲は広い。

■モデレーター

杉浦 太一 株式会社CINRA CEO
2003年、大学在学中にCINRAを立ち上げる。アート、デザイン、音楽、映画などのカルチャーニュースサイト『CINRA.NET』や、アジアを中心としたバイリンガルシティガイド『HereNow』などの自社メディアの運営、企業や行政のメディア制作・運営、海外情報発信などに従事する。

 

メディアって、華やかなもの?

 

杉浦:「メディア」というワード。バズワード的に、多くの人が使い、よく聞くようになってきた気がします。しかも割と「華やか」というイメージがついているように感じるんですが、お二人のご経験として、どうお感じになられますか?

三枝:昔はマスメディア=メディア、という使われ方がしていましたが、メディアという言葉の使い方がちょっと広がってきたのかなと思います。例えば、交通広告1枚でもそうですけど、昔は貼りっぱなしでそれをメディアと呼べるかと言うとちょっと違うかなというものも、今はデジタルサイネージが増えてきて、メディアの役割を果たすようになってきたのかなと。
あとは、色々な企業さんがオウンドメディアを始めたりとか、ソーシャルメディアが広がる中で「メディア」という言葉をよく耳にする機会も増えましたし、バズワード的に感じられるのかもしれないですね。

羽鳥:そうですね、かっこいいものなのか、華やかなものなのか…そう感じる人はいると思うんですけど、ロケットニュースはどうかと言うと、かっこよくはない、華やかなものでもない(笑)。

三枝:そういう意味で言うと、テレビもかっこよくも華やかでもないかもしれないですね。コンテンツ作りってすごく大変なので…

杉浦:やっぱりきついですか?

三枝・羽鳥:うん、きついきつい。

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杉浦:今までメディア、コンテンツ制作に携わってきて、あれはヤバかったな…ということはありましたか?

羽鳥:昔、自分の写真が勝手にFacebook広告に使われていたことがあって、作っていた人を特定したんですよ。で、その人の家に(記事の取材のために)乗り込んだんですけど、その時は怖かったですね。足ガクガク震えてたし…(笑)だってどういう人が作ってるかわからない訳じゃないですか。そういう相手のところに乗り込む時はやっぱり怖いですね。
で、結局相手は日本人で、今では仲良しになっちゃったんですけど。

三枝・杉浦:(笑)

羽鳥:あとはネットショッピングで自分のアカウントを乗っ取られて勝手に買い物をされていて、その時も、相手の住所をつきとめて…その人大阪だったので、すぐ車で8時間ぐらいかけて行きましたけど、その時もめちゃめちゃ怖かったですけど(笑)
その時は相手が中国人で、怖さもあってあんまり話が成立しなかったですね。

杉浦:こういう乗り込んでいく系が多いんですね。

羽鳥:そうだな…あとはブート・ジョロキア事件。ブート・ジョロキアという激辛ハバネロが手に入って。食べてみたんですよ。で、ポリポリその時は平気だったんですけど、30分ぐらいしたら上から下からすごいことになってしまって…最終的には救急車を呼んでもらうという事件はありましたね。

三枝・杉浦:(笑)

羽鳥:うちって、よくケニアに行ってマサイ族みたいな人たちに取材するという手を使いがちなんですけど(笑)、現地に行ったときに、知らずに撮影禁止区域でスマホ撮影してしまったみたいで。いきなり軍隊みたいな制服を着た警察が駆け寄ってきて拘束されて、ライフルを向けられて「写真を消せ!」みたいな。ショッピングモールの駐車場みたいなところのなんでもない写真だったのですぐ消しましたけどね。

杉浦:じゃあもう危険なところには自ら突っ込んでいく感じですね(笑)三枝さんは何かテレビをつくっていて危ない目にあったご経験はありますか?

三枝:もうこれは羽鳥さんに勝てない(笑)そういう意味でいうと、テレビってヤバいことを避けるメディアだったから…少し昔(1990年代)だと、羽鳥さんがおやりになっていたようなことを放送でもやっていた時期はあって。電波少年とか、本当にアポなしでやっていて。例えば松本明子さんがアラファト議長に会いに行くのも完全にアポなしでしたしね。チャレンジする過程を放送しても怒られなかったですね。
ただ、今の時代(2000年代以降)は、なかなか厳しい。テレビというメディアがガチガチに責められるようになってきたっていうのは確かですね。報道は当たり前ですけど、バラエティに対してもかなり厳しい目が向けられるようになりましたね。
我々が今やっているC Channelというメディアは、女性向けのメディアなので、女性が綺麗になるための情報を伝えたりとか、あまりご質問にあるようなヤバいことはしないですね(笑)

 

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GO羽鳥氏(左)と三枝氏(右)

 

メディア乱立時代?のコンテンツ制作体制とは

 

杉浦:ここ2~3年で起こっている、バイラルメディア、キュレーションメディアの乱立はどう見ていますか?

羽鳥:うちは、そんなに気にしていないですかね。(バイラル系は)動画が多かったりしますし。たまにテーマはかぶったりするけど。でも、うちと同じようなタイトルとかネタとか、たまに勝手に使われていたりするのでそういうのはチェックしています。

三枝:うちは、グノシーとかにC Channelタブがあったりするし、配信先になっていたりする。メディアで重要なのはどう生活に入っていくかだと思うので、いかにソーシャルメディアと組み合わせて配信していくかというのは大事だと思っています。

 

杉浦:コンテンツを作る体制はどのような形をとっているんですか?

三枝:動画コンテンツを中心に展開していますが、うちは雑誌に近いですかね。企画があって、それにディレクターがいて、動画に落とし込む。

杉浦:動画作るのって大変じゃないですか?

三枝:大変です。たとえば恋愛系のコンテンツなんですけど、ストーリーをつくって、テレビドラマのようなカット割りをして…時間も予算もかかりましたね。でも、クリエイティブのクオリティをどこまで上げるかというのは重要なんです。

杉浦:企画とか撮影は別の人がやってるんですか?

三枝:企画から撮影まで全部やっちゃう人もいますし、女性向けのメディアなので、テーマによってはプランナーは女性が担当して、撮影・編集を男性が担当するということもありますね。で、出来た動画をストックしておいて、時期・タイミングに合わせて出したりしています。一度出したものを再度出すこともありますね。

羽鳥:スタッフの人数規模はどれぐらいなんですか?

三枝:そうですね、規模は30~40人ですね。

杉浦:ロケットニュースはどうですか?

羽鳥:毎日毎日できたらいいけど、それはなかなか難しいですね。2週に1回ぐらい企画会議をしています。あとは時事ネタ・バズワードに関したことを取材したり。

三枝:やっぱりバズワードの方がPV上がる?

羽鳥:上がりますね。でも他と同じだと埋もれちゃうので。ひねりは必ず加えていますね。

杉浦:チェックは?

羽鳥:記事をセットする人がいて、その人がある程度まずいものとかは報告してくれていますね。

三枝:うちは、それぞれのジャンルにブランドマネージャがいて、チェックはしています。あとABテストのようなこともしています。KPIを設定して、分析はしていますよ。

羽鳥:うちもアクセスとか数字はみんなが見れるようにはしています。そんなに極端にシビアには見ていないですけど。

 

杉浦:ビジネスモデルとしては、やはり広告ですか?

羽鳥:ロケットニュースは広告収入のみが収入源です。記事広告、バナーとか。営業チームがいるので、そのチームが日々動いています。飲食・飲料系のクライアントが多いですね。

三枝:ユーザー層はどんな感じなんですか?

羽鳥:30~40代ですね。男女は半々です。

杉浦:C Channelはどうですか?

三枝:うちも広告モデルですかね。たとえば、おたふくソースチャンネルっていうチャンネルがあって。おたふくソースで何かつくるとか、そういう形の記事広告なんですけど。よく「記事広告だから読まれない」って言われるけどそうは思っていなくて、結果的に面白ければ読まれると思うんですよ。ユーザーとしては、あくまでコンテンツを見に来ているだけなので。

 

杉浦:定額課金、イベント、とか次の一手とかは何か考えているんですか?

羽鳥:ムック本とかやってみたんですけど全然売れませんでした(笑)作るのは面白かったですけどね。今のところは他の手は考えていないですね。

三枝:うちは動画なので、ECとかイベントとか、今出ている女の子たちが有名になってくれたら、メイク講座とかもできますし。あとは海外展開ですかね。今はタイ・台湾の現地法人もあるので、そこでも動いています。文字は言語変換しなきゃいけないけど、動画って実はそこまで言語変換が必要なかったりするんですよ。ロケニューさんも英語版がありましたよね?

羽鳥:ありますよ!取り扱うネタとか内容は一部違ったりしますけどね。

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モデレーターを務めた 杉浦氏

 

メディアをやっていく上で、一番大切なこととは?

 

杉浦:お二人が、メディアをやっていく上でのポリシーはありますか?

羽鳥:まず、人を、というか特定の人を悲しませないことです。私が編集長になるまでは、例えばオタクの人をいじったりして、笑いにしてしまったりとか、そういうのもあったんですけど。そういうのは好きじゃなくて。私が編集長になってからはそういうのは辞めにしようって言ってますね。
あとは、素人さん(一般の方)の炎上ネタも取り扱わないようにはしています。ちっちゃいところを相手にするよりも、でっかいところを相手にしようというか。やっぱり楽しい気持ちにさせようとは思っていますね。「馬鹿なことやってるなー」って笑ってもらえれば。

三枝:そこは羽鳥さんと一緒で、人を悲しませないというのはメディアで大事なことかなと思っています。特定の人を傷つけるというのは、やはり大手メディアもそうですけど、信頼度が失われると思います。メディアってやはり信頼で成り立っているものだとも思うので。
 


 

GO羽鳥さんのロケットニュース取材にまつわる強烈なエピソードに会場は驚きと笑いに包まれつつ、三枝さんの日テレ時代からの幅広いご経験の中で培われた考え方や現在注力されているC Channelのお話も伺うことができました。
Webメディアにおいては特に「炎上しないように」「怒られないように」と自らの方のリスクを考えてしまいがちですが、お二人の口から出たのは「人を悲しませない」という言葉。それがメディアの信頼につながるというお話に重みを感じ、非常に印象に残りました。

 

 

取材協力:AQUENT