本エッセイは、ライター・チャンワタシさんによる文章と、アマナイメージズ クリエイティブディレクター・松野正也によるフォトキュレーションでお届けします。
==========
5ヶ月前から、職場のデスクでアボカドを育てている。
昔ネットかなにかでアボカド栽培について見たのを思い出し、仕事でたまたま使ったアボカドの種を「試しに育ててみるか」と、ほんの思いつきだった。
種の半分だけ水に浸かるように竹串を刺して固定し、グラスに浮かべる。特にややこしい注意点はなく、見た目はアボカドのあの大きな種が思いっきりグラスに入っているのみ。こんなので本当に芽が出るのか不思議だ。
職場の人には「それ、何?」と何度も聞かれた。
「アボカドを育ててるんです」
『へぇ。いつ食べれるの?』
「実がなるのは7〜8年後らしいです」
『えっ?遅!』
こんなくだりを、人を変えては10000回くらいやった。
デスクという環境があまり良くないのか、芽が出たのは1ヶ月後のこと。
にょきにょき生えた根っこや芽を見ると、マメじゃない自分も使命感にかられ、水を変えねばという気持ちになる。いつの間にか飲み会でも「ほしちゃんが、なんか変な木を育ててる」とネタにされるようになってしまった。
しばらく出勤できない日が続くと、根が弱ってしまったり、水替えでうっかり床に落として、せっかく生えた芽がバキバキに折れるというアクシデントもあったりした。
それでもゆっくりとまた根と芽は生えてくる。なんとか踏ん張って葉っぱが広がる様子を見ると、生きる力を感じずにはいられない。
先日、家で新たにアボカドを食べたときは、その種をどうするかで迷った。今捨てようとしている種と、職場で育てている種の違いはなんだろう?
「これ、水を入れると芽が出るんだよなあ・・・」そんな風に思うと、少し気の毒になって、今までのように気軽には捨てられなくなってしまう。
この先育てたアボカドが食べられることは期待していない。7年先まで育てるぞ、と意気込んでいるわけでもない。それでも、今日もアボカドが元気にのびているから水をあげる。その繰り返しだ。
私が今日いる理由も、それくらいシンプルでいいのかもしれない。お腹が空くからご飯を食べる。眠くなるから寝る。生きるために働く。
「今日も生きてるから水を飲んじゃったぜ!」
そんな感じで、気づけば7年くらいあっという間に経って、元気に美味しいアボカドが食べれたら、それって超最高だ。
チャンワタシ(ちゃんわたし)
1990年生まれ。Webメディアの編集者をしながら、2017年6月よりフリーライターとしても活動中。取材記事・コラム・エッセイなどを手がける。日常の気づきを綴った『note』が人気。
Twitter:@chanwatac
note:https://note.mu/hoshinc
松野 正也(まつの まさや)
株式会社アマナイメージズ取締役。2007年グラフィックデザイナーとして株式会社アマナに入社、CI/VI開発・制作に携わる。2009年からamanaimages.comのWebデザイン・サイト運営を担当。現在は、主に広告制作マーケットに向けたストック商材のクリエイティブディレクションを担当している。