本エッセイは、ライター・チャンワタシさんによる文章と、アマナイメージズ クリエイティブディレクター・松野正也によるフォトキュレーションでお届けします。
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中高生時代に着メロにしていた曲を聴きながら出勤すると、朝からむき出しの感情になれるということに、最近気づいた。
特に思い入れが深いのは、aikoの『かばん』という曲だ。
当時は、アドレス帳に登録するグループによってそれぞれ別の着メロを設定することができ、メールを受信したときに光るランプの色も相手によって変えることができた。
私は『かばん』を好きな人が含まれる仲良しグループの着メロにし、そのグループのランプはピンク色に設定した。実に分かりやすい。
好きな人からメールが届けば『かばん』が流れ、ランプはピンク色にピカピカと点滅する。
“大きな鞄にもこの胸にも 収まらないんじゃない 恥ずかしい程考えている あなたのこと”
(aiko『かばん』より)
本当に、分かりやすい。
私は着メロとランプが光るたびにケータイに飛びついたが、度々、その期待は裏切られた。
グループで設定をしていたために、好きな人とは違う数人の子も、同じ曲とランプで表示されてしまうのだ。
「大きな〜鞄にもこの胸にも〜♪」
ハッとなって慌ててケータイを取ると、クラスの男の子だ。メールを開くと、
「1リットルの涙の沢尻エリカ、まじかわいい。」
めちゃめちゃどうでもよかった。心の中でめいいっぱいの「知らんがな」にエコーを効かせた。
その後も、曲が流れるたびに急いでケータイを開く。
それが「このメールを10人に送信すると幸せになれるよ☆」という類のチェーンメールだったときは一人で腹を立て、好きな人からのメールだったときはどんな内容でもこっそりシークレットフォルダに大切に保存した。
彼から届くメールは、どんな些細な内容でも、私にとっては速報であり、吉報だった。
そんな思い出が、今でも『かばん』を聴くたびに頭にふわっと思い浮かび、懐かしさと恥ずかしさで胸がいっぱいになる。
そう分かっていながら、毎朝の通勤時に粛々と『かばん』を聴く。
仕事は、まったく捗らない。
チャンワタシ(ちゃんわたし)
1990年生まれ。Webメディアの編集者をしながら、2017年6月よりフリーライターとしても活動中。取材記事・コラム・エッセイなどを手がける。日常の気づきを綴った『note』が人気。
Twitter:@chanwatac
note:https://note.mu/hoshinc
松野 正也(まつの まさや)
株式会社アマナイメージズ取締役。2007年グラフィックデザイナーとして株式会社アマナに入社、CI/VI開発・制作に携わる。2009年からamanaimages.comのWebデザイン・サイト運営を担当。現在は、主に広告制作マーケットに向けたストック商材のクリエイティブディレクションを担当している。