プロフィール:松尾たいこ松尾たいこ
広島県生まれ。1995年、上京しセツ・モードセミナーに入学。1998年、フリーのイラストレーターに。第16回ザ・チョイス年度賞鈴木成一賞受賞。広告、CDジャケット、雑誌、書籍、ファッションブランドやミュージアムショップにも作品を提供し、幅広い分野で活躍。今まで手がけた書籍装丁画は250冊を超える。著作に『わたしがみつけたもの』や絵本『空が高かったころ』、江國香織氏との共著『ふりむく』等がある。


※この記事はamanaimages.comで過去に掲載されたものです

 

松尾たいこさんにお話を伺いました

イラストレーターとしての書籍の表紙や広告のお仕事にとどまらず、オリジナルグッズを出したり、自身のライフスタイルの本を出したりと、どんどん活躍の場を広げる松尾たいこさん。
松尾さんらしい洗練されたオシャレなアトリエでお話をお伺いしました。

 

──イラストレーターを目指したきっかけを教えてください。

松尾たいこ

絵を描くのは小さい頃からずっと好きだったんですね。水森亜土さんのような、筆箱に絵を描く人になりたいって。でもお花屋さんとかに憧れるとかそういう感じでした。
会社に10年くらいいて…会社のなかにこうなりたいという人がいなかったから、自分の未来像が見えなかったんです。むかしから好きだった絵の勉強がしたいと思って、セツ・モードセミナーに行こうって決めました。セツ・モードセミナーは年齢もいろいろだし、くじ引きで入れるから。くじ引きが当たったから会社を辞めて上京しました(笑)。

 

 

 

──目標にした人はいますか?

はじめはイラストレーターになれるとは思ってなかったのですが、まわりは本気で目指している人ばっかりで。入学して一週間経ったら本気でイラストレーターを目指していました。
会社員の時からずっと好きだったのは伊藤桂司さん。学校で絵の勉強しているときも伊藤さんに連絡をして絵を見てもらったりしていたんです。学校に行き始めてからいろんな画集をみたり、友達と話したりしている間に、どんどん好きなイラストレーターとかアーティストが出てきて。イラストレーターではないけど、アレックス・カッツさんも好きです。

──最初のお仕事を教えてください

最初の仕事は、雑誌『SWITCH』。98年にはじめての個展をやったんだけど、その個展のDMがきっかけでSWITCHから連絡があって。初仕事になったんですね。

──そこからお仕事が増えていったいうことですね。本のお仕事が多いようですが。

個展をやったのとイラストレーターの登竜門と言われている「ザ・チョイス」に入選したのが重なって。それをみた新潮社からも連絡があって、はじめて本の装丁をやったんです。
そこからがスタートで、はじめのころは特別に本の表紙をやりたいとは考えてなかったんですけど、蓋をあけてみたらどんどん本の表紙の仕事がくるようになりました。それもSFだったり海外ものが多かったりして。私の絵って、そういう風なものに合うんだなっていうのを知りました。

──手がけた装丁は250冊くらいと聞きましたが?

もっとやっていると思う(笑)。多い時は月5冊とかで年に50冊。10年やっているので…(笑)。
いまも2冊やっているところです。

 

──作品についてお伺いします。はじめは人物を描くのが苦手だったそうですが。

松尾たいこ

人見知りだったんです、人の顔をみるのが苦手で。風景だったらいくらジーッとみても平気じゃないですか(笑)。空想するのが好きな子供だったので、雲などを見れば、そこから楽しくいろいろ発想して、手を使って形にできたんだけど、人物ではそれができなかったんですよね。
でも、仕事を続けていくうえでは、人物がちゃんと描けるようにならないといけない。で、集中して練習したんです。描いても描いてもうまくいかなくて。 ある時ふと、人間だって目や口や鼻はあるけど、それも模様じゃない?って思って、顔の中の模様だと思ったら描ける、ということに気づいて。それまでは目は同じ位置に同じ大きさにしなきゃいけない、と考えていたんだけど、人間の目だって均等にあるわけではないし、大きさだって片っぽずつ違うかもしれない。トータルとして顔にみえればいいんじゃん!って気づいたんですよ。山とか木とかはそうやって描いてきたし、トータルにそう見えればいいと。
そうだってことに気付いたら急に描けるようになったんです。
私の絵では目玉を描かない人物が多いんですけど、印象として目に見えればいいんです。

──目に見えないもの(風や空気)を描かれていますね。

そのときに受けた印象を描きたいなあと。植木だったらいま気持ちよさそう、日が当って輝いて見えるとか思ったら、そこを強調するんです。
ひとつの風を表現するのにも、いっぱいの言葉があります。固そうとか、冷たそうとか、痛そうとか、とがっている感じとか、包み込むような、とかね。いまは包み込むような雨だなあ、って思ったときに、どうやって描いたらいいかなあって考えて描く感じですね。頭の中に浮かんだ言葉がもし形として見えたとしたら、どうなんだろうって描いてます。

──創作活動で普段大切にしていることはなんですか?

自分の中がからっぽにならないようにっていうのは気をつけています。映画やファッションが好きで、あの色の組み合わせはよかったな、とか、あの構図はかっこよかったなとか、常に満たすようにしています。
あと、もちろん自分が描くから何を描いても松尾さんっぽいねってなるのは当たり前なんだけど、自分のなかで、前に描いたあの絵の真似しようって描くようなことはしたくない。

松尾たいこ
──作品制作のプロセスについて具体的に教えていただけますか?すべて手描きなんですよね?

基本的にそうですね。パッケージとかはIllustratorで描いているんですけど、多くはほぼ手書きです。絵具で。
一時はパソコンのなかでラフを考えたり、色もPhotoshopを使ってイメージを決めてから、絵具で実際に描いていました。でもそのやり方が作業っぽくて、仕上がりが自分で想像できるのがつまらなくなっちゃって。そのまま絵の具で描くほうが楽しい。イラストレーターは商業的な仕事ではあるけれど、気持ち的にはアーティスト気分っていうか(笑)。そんな気持ちで描いてます。

──アマナイメージズに期待することは何ですか?

いままでやったことのない媒体でやってみたいですね。頼みにくいイメージがあるみたいで、あまり地方からの依頼がこないのですが。どんどんいろんな仕事がしたい。

──今後の活動についてお聞かせください。

今回のエッセー本で文章を書くのが楽しかったので、文章だけでも自分のテイストを出せるものを書きたいなあって思っています。
あと、去年はじめてエッチングをやったんです。展示をしたら評判よくって。いままでとは違うやり方・道具を使っての表現をやりたいですね。あと彫塑もやってみたい!
とどまるのはあまり好きではないので、ちょっとずつ変わっていきたい。表現は変えてなくてもいいから足していければいいなって思ってます。

アマナイメージズで松尾たいこさんの特集を見る