アメリカフロンティアの象徴、マスタングの数奇な運命

※この記事はamanaimages.comで過去に掲載されたものです

作家プロフィール

イヴァ・モマテューク Yva Momatiuk名前
ポーランド生まれのイヴァ・モマテュークは8歳の時から自然や動物の写真、ドキュメンタリーフィルムに親しんだ。建築学で修士号を獲得、ニューヨークでデザイナーとして働いた後、ワイオミング州で馬の調教師となり、同時に写真家、執筆家としてのキャリアをスタートする。パートナーのジョン・イーストコットとは共に自然を専門とする写真家夫婦である。

 


草原を駆ける野生の馬、マスタング

写真/文 イヴァ・モマテューク

突然、バリバリと木をかき分ける音が聞こえたかと思うと、暗いトウヒの森の中から何やら大きな生きものがこちらに向かってくるのが見えた。クマか、あるいはピューマだろうか? 頭の中がパニックとなる。次の瞬間、月明かりに大きな頭と目が浮かび上がり、目の前の数インチのところで止まった。それは、アメリカに生息する野生馬――マスタングだったのだ。
森にいると思われるメスを守るため、彼は私の匂いを深く吸い込み、記憶に照会する。このとき私が踏みつぶされずに済んだのは、まったく彼の優れた記憶力のおかげだ。実際のところ、我々は知り合いだった。

草原を駆ける野生の馬、マスタング イヴァ・モマテューク ミンデン・ピクチャーズ

ほぼ6年もの間、夫のジョンと私はアメリカ西部でマスタングを追いかけてきた。モンタナとワイオミングの州境にあるプライヤー山野生馬保護区には、約140頭のマスタングが暮らしているが、そのうちの1頭がこの若い牡馬だったのだ。私たちが観察をはじめたころ、彼はまだほんの子どもにすぎなかったが、いまや立派な牡馬に成長していた。

 

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2年前の夏、私は彼の最初のハーレムを観察するため、牝馬や仔馬たちの後ろについて歩きまわっていた。膝を曲げて前屈みになり、できるだけ脅威と思われないよう注意していたが、彼らにとってみればピューマとなんら変わりのない、危険な侵入者でしかなかったことだろう。彼らは自分たちが狙われる可能性を常に意識しており、もし私がちょっとでも素早い動きを見せたら、立ちどころに埃を舞い上げながら駆け去っていたに違いない。

 

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そこで私は、まず距離をおき、優しく歌を歌いながら、自分の存在を彼らに知らせる。そして慣れてきたころを見計らって、休んでいるウマたちのそばへ這い寄っていく。そこからはさらに注意が必要だ。草をかき分けてカメラを構え、花の間から被写体を狙う。彼らが警戒し、少しでも濡れた瞳をこちらに向けたら動きを止め、指先で草をゆっくりと元に戻す。

 

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マスタングや家畜のウマ(Equus caballus)の祖先である最古のウマは、約5000万年前の始新世に北アメリカで暮らしていたヒラコテリウム(Hyracotherium)だといわれる。
ヒラコテリウムはキツネとあまり変わらない大きさだったが、その子孫は体が大きくなり、スピードを確保するために指の数が減って、噛む力は強く歯は大きくなっていった。更新世(約260万から1万年前)の北アメリカにおいて、初期のウマ属(Equus)はアメリカバイソンよりも数が多かったのではないかという古生物学者もいる。

 

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現生のウマ(Equus caballus)は約200万年前に現れ、ベーリング地峡を経てユーラシアと北アメリカを行き来していたが、1万年ほど前に新大陸からは姿を消した。
長い時間をかけて草原に適応してきた彼らが滅びたことはまったく不可解で、北アメリカでウマが絶滅したのは人間によって食べ尽くされたせいではないかとも考えられている。

 

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1500年代初頭、スペインからの征服者は、ウマの原産地である北アメリカに家畜のウマを持ち込んだ。何千万年にもわたる壮大な世界一周旅行の終わりである。スペインから持ち込まれたのは、頑丈なバルブ種という品種のウマで、これが逃げ出したことによって、アメリカに野生馬が戻ってきたのだ。バルブ種の血は、今も色濃くマスタングたちに残っている。(続く)

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ストーリーセットとは

ミンデン・ピクチャーズでは、写真とそれに纏わるテキストをセットにした「ストーリーセット」をご用意しています。生物・自然科学に精通したフォトグラファー自らが執筆したレポートと写真のセットや、数年に渡り動物の生態を追いかけたシリーズなど、幅広いジャンルを取り揃えています。

料金について

・ストーリーセットの料金はご使用いただく写真の合計点数や使用目的に合わせ、個別に提案いたしますので、お気軽にお問い合わせください。
・テキスト料金は各ストーリーセットごとの文章ボリュームによって変動いたします(目安¥50,000(税抜))。
・専門家の監修や編集のご依頼も承ります。自然科学分野における出版企画・編集を専門的に行う株式会社ネイチャー&サイエンス(アマナグループ)がサポートいたしますので、まずは下記までご相談ください。

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