ショッカソンは株式会社スパイスボックスと一般社団法人T.M.C.Nが主催し、企業や大学の研究室が開発したプロダクトやサービスなど10数種類の最先端技術を活用するアイデアをみんなで出し合い、新しい製品やサービスのプロトタイプを開発する触覚に特化したハッカソンイベント。最終日には、そのアイデアの斬新さやユニークさ、完成度をチームごとに競い合い、審査員による評価を行います。

今回提供されたものの中には、プロダクトやサービスだけでなく、「アニメちっくアイドル」として世界で活躍する桃知みなみさんのキャラ設定や音声データも含まれ、バラエティに富んだラインナップ。

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会場でデモ会に参加する桃知みなみさん (桃知みなみOFFICIAL SITE:http://momochi373.com/

「VR元年」と呼ばれている2016年、VR技術には、発展の余地が大いにあると言われています。“現在は視覚と聴覚の刺激が主軸となっているVRは、多くの人が体験できる形で、触覚や嗅覚、味覚の技術が組み合わさると、VRの可能性はさらに広がっていく”。これは、以前スパイスボックスの山崎さんに取材させていただいた際に伺ったことでもあります。

技術の発展が期待されている分野のひとつである触覚に関する技術、そして、その技術を使ったVR作品。2014年に始まり、今年が3回目となるショッカソンでは、どのような作品が揃ったのでしょうか?

開催されたのは8月27日、28日の2日間。portfolio編集部がお邪魔したのは最終日8月28日、デモ会に向けて最終調整を行っている最中だったので、会場は慌ただしい雰囲気に包まれていました。

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最終調整の時間が終わると、デモ会が始まり、審査員の先生方が各チームをまわって作品を体験していきます。portfolio編集部も、デモ会でみなさんが作った作品を体験させていただきました。

以下、各作品の体験の様子と技術賞、大賞に輝いた作品をご紹介します。

 

チーム桃尻吐息 「桃色吐息」

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「桃色吐息」は、耳元で囁かれている感覚を体験できるヘッドホンです。音、振動、風を使って囁き声や吐息を表現しています。実際にこのヘッドフォンを装着すると、事前に収録された桃知さんの囁き声が聴こえ、声に合わせてヘッドフォンの中に仕込まれているファンが回って耳元に風が送られてきます。

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女の子に囁かれるのは恥ずかしかったですが、耳元は敏感な部位なので、声の音量と風の風量をうまく調整して、ファンが回る音が軽減できれば、よりリアリティのある“囁かれている感”が演出できそうです。

審査員の先生方の中には、耳の中でも耳たぶが最も敏感なので、耳たぶに風を送るといいという意見や、送風の音量を軽減するためには、ファンを回す以外の方法を試してみるといいという意見も出ていました。

 

チームRTT 「感情倍増椅子」

ホラーVRコンテンツを体験しているときに感じる怖さを、指心拍と吐息をセンサーで増幅し、振動に変換することで倍増させる本作。計測機に指先を乗せると、計測された脈拍が変換され、背中の後ろにある振動子から自身の背中に伝わってくるというもの。

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スピーカーのユニットを使って、心臓の「ドクン」という動きを再現していて、とてもリアリティがありました。背中にぴたっとついているので、背中から伝わる自分の心拍にドキッとしてしまいます。

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デモ会でもホラー映像を見ながら体験しましたが、筆者には映像があまり怖くなかったため、さらに怖い映像で試してみたい!と思いました。

審査員の先生の中には、「一瞬油断させたあとに驚かせる映像を使うと、より効果的なのでは」という意見があり、この意見には筆者も首を縦に大きく振りました。映像や音声で世界観を作り込むことができれば、さらなる感情の増幅が期待できますね。

 

チーム手災対(手乗不明生物特設災害対策本部) 「シン・モモチ」

「SPIDAR-G」と「電気触覚ディスプレイ」をベースに、ペッパーズ・ゴーストを利用した空中像装置を制作したチーム手災対。

シンモモチ体験

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さらに、3DCGの桃知さんが第一形態、第二形態、第三形態と進化していく桃知さんのアニメーションも制作していました。こちらは桃知さんの大好物である桃に触れると、桃知さんからビームが発射され、指を置いている部分から電気刺激を感じるというもの。

桃知さんのグラフィックの作り込みや、進化するときの桃知さんの声にまで気を使うなど、細かい演出が印象的でした。この2つが合わさると、よりインタラクティブ性を感じられる作品へと発展していくことが期待できます。

 

チーム電撃フットワーク 「電撃フットワーク」

歩き続けたり、立ち続けたりすると足が疲れますよね。「電撃フットワーク」は、足が受けている衝撃を富士通「Interacitve Shoes Hub」のセンサーで感知し、手にフィードバックする装置です。

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強い電気を通すため、電気量の調整の幅が広い市販の低周波治療器をハックして作られていました。この電気刺激がまた痛いんですよね。電気の強さは自分で調整できるのですが、まだいけるかな?と思って少し強めると、途端に腕が痙攣するほどの強い電気が流れてきました。実際に足が疲れている時に試してみたい気もしますが、電気刺激でさらに疲れてしまいそうでちょっと怖いです。

 

チーム最高の触感 「触感釣りゲーム」

最高の触感を体験できる釣りゲームを作ったというチーム最高の触感。

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力覚を呈示するデバイス「SPIDAR-G」を使って、魚が餌にかかった瞬間の「引き」の感覚を見事に表現していました。

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何度も魚に引かれながらも、無事釣り上げることができると、プログラムに成功したことが表示されます。竿を引くタイミングによっては、魚を逃がしてしまうこともあるのだそう。

この写真からも伝わるように、見た目は“球を引いている”という印象が強いため、見た目もリアリティが追求されていくと、さらにゲームに入り込むことができそうです。

 

チームぽてろんぐ potte long 「Generative Dance unit」

周囲から見つめられることで、振動と電気パルスによるフィードバックが呈示されるデバイスと、ダンスをすることで映像が生成されるシステムを制作したチームぽてろんぐ potte long。

ぽてろんぐ体験

好きな人に何もしなくても好かれたいという願望を叶えるため、好きだからドキっとしたり、ビリっと電撃が走る感覚を味わうのではなく、ドキっとしたり、ビリっと感じるから好き、という真逆の発想で作られていました。

 

チームTI 「ショッカソード」

剣を使ったアクションゲームに触覚の要素を加えた本作は、力覚を呈示するデバイス「SPIDAR-G」を使って、ゲーム内で攻撃する対象の硬さ、やわらかさの違いによって、手に感じる触感の違いを再現していました。

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やわらかい対象のひとつとして画面の中に現れたのは、ここでは書けないみなさまご存知の茶色くて臭い物体(想像にお任せします)。攻撃すると、ぐにゃっとした感覚が手に伝わってきます。このなんとも言えない感覚に、筆者は気持ち悪さを感じました。気持ち悪いと思わせることができるのも、視覚と触覚が合わさっているからかもしれません。

こちらの作品も、釣りゲーム同様、実際に目に見えている球体のプロダクトの見た目を工夫すると、リアリティが増し、ゲームの世界に没入することができるのではないでしょうか。

 

続いて、主催者3賞のHappy Shocking賞、技術賞、そして対象を受賞した3作品をご紹介します。

 

Happy Shocking賞(参加者投票)

チームダムダム団 「Ping-Pong Air」

振動による触覚フィードバックユニットをワイヤレスで実装した卓球のラケットと、各種モーションセンサーがソールに埋め込まれた富士通「Interacitve Shoes Hub」とを組み合わせ、実際のボールを打つことなく、卓球のラリーを行っているような感覚を呈示する作品です。

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ラケットを振ると、実際にラケットで球を打っている時の音が鳴り、「Interacitve Shoes Hub」が中に敷かれた靴でステップを踏むと、まるで体育館で卓球をしているかのように「キュッキュッ」と音が鳴ります。靴音が鳴るという部分が、臨場感を演出する大きなポイントとなっていました。

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靴の中には加圧センサーが仕込まれています

このセットがあれば、ひとりで素振りしているのに、まるで誰かと対戦しているかのような感覚を楽しむことができます。こちらの動きに連動して球を打ち返してくる映像を合わせると、さらに臨場感が増しますね。VRとの相性もばっちりです。

操作が分かりやすく、エンターテイメント性が高い。そして、短い時間の中で素振りを楽しめる作品を作ることができている点が、参加者の票を集めた理由かもしれません。

 

技術賞受賞

チーム 無言の圧力「無言の圧力インターフェイス」

技術賞を受賞したのは、周囲の冷たい目や無言の圧力に気付き、空気を読めるようになることを目的として作られた「無言の圧力インターフェイス」。

背後にとりつけたカメラで周囲の人の表情を読みより、ネガティブな表情をしている人がいると、それを「無言の圧力」として検知。首筋に取り付けたデバイスから電気パルスを発生させ本人に気づかせるウェアラブルインターフェースです。下の写真のように、「怒り」や「嫌悪」の表情をカメラが読みとると、ビリっと痛い思いをしてしまいます。

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「怒り」の表情をする作者

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電気刺激の大きさは手元のコントローラーで調節できますが、まだいけるかな?と強くすると、かなり痛いです。感情によって感じる刺激が異なるため、刺激の違いによって、周囲の人がどのような感情を抱いているのかを知ることができます。

写真からも分かる通り、カメラに認識させるために、かなり大きく表情を動かす必要があるため、表情認識機能が向上すると、細かい表情をも読み取り、周囲の感情の変化に敏感に対応することができるようになるかもしれません。

受賞理由としては、「空気を読む」といった自分と他者とのその場その場の関係性を「知覚」できるようにするというアイデアの良さと、電気触覚ディスプレイとMicrosoft Azure Emotion APIを組み合わせた表情検知/フィードバック(無言の圧力)システムを短時間で実装したことが挙げられます。

 

大賞受賞

チームありあ 「安眠ツールキット」

「ストレス性の不眠症を改善する」という目的を持って作られた「安眠ツールキット」は、ストレスを緩和する方法のひとつである“首を押さえる”という動作を自分で自分の身体に施すというものでした。

目の前に用意されたマネキンの首に装着されている圧力センサーを押さえると、首に巻いた枕の中に仕込まれている振動ユニットによって自身の頸動脈付近が刺激され、リラックスでき、睡眠を促進できるという仕組みです。

最も気持ちよく感じる振動値に設定するために、様々な振動値を試し、首に巻く枕の最適な素材を考えた末に、この形にたどり着いたそうです。

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実際に首に巻いて体験させてもらいましたが、振動しているだけなのに、ちゃんと押さえられている感覚になって、結構効くんです。自分で力を調整できるので、微妙な力の調節も可能となっています。

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受賞理由として、首を締め付けることでリラックスできるという体験について、学術的なリサーチが行われ、ハッカソン時間内で実装していること、触覚体験の質が圧倒的に高く、今後の可能性が大いに期待されることが挙げられました。

 

以上が各チームが制作した作品です。

最後に、主催の株式会社スパイスボックス 山崎晴貴さんに「シンタイセイ ショッカソン2016 今年の夏も弾けろ!触覚祭」の総評をいただきました。

今年のショッカソンはこれまでと比較して、出来上がった作品のレベルがアップしていることにまずびっくりしました。特に主催者三賞を受賞したチームの作品は抜群に完成度が高く、このまま開発を続けたら商品化できるんじゃないかなと思いましたね。

また、作品のテーマが多様化し成熟しつつあるのを感じました。例えばこれまでもコミュニケーションが題材となった作品はあったのですが、技術賞を受賞した「無言の圧力インターフェース」は、「1対多」というSNS的な関係を扱った点が独特で、テクノロジーの発展がコミュニケーションを難しくしているという、問題提起というか批評的な精神を感じさせるものでした。Happy Shocking賞の「Ping-Pong-Air」は、東京オリンピック・パラリンピック開催を4年後に控えた今日的な提案でしたし、大賞を受賞した「安眠ツールキット」は、触覚技術がヘルスケアやメンタルケアといった実用の領域でも使えるという可能性を示してくれました。

今回のショッカソンで生まれた作品たちの良さは、実際に体験しないとなかなか伝わらないのですが、今年は協賛企業様からいろいろなイベントで展示やデモを行う機会を頂くことができました。VRも同じですが「百見は一触にしかず」。もしどこかで展示しているのを見かけたら是非体験していただけるとうれしいです。

ショッカソン全体

ショッカソン2016主催者、参加者、協賛企業のみなさま

2日間に渡って行われた「シンタイセイ ショッカソン2016 今年の夏も弾けろ!触覚祭」。2日間の内にプロトタイプを作らなければならないスケジュールの中で、アイデアを実現するために、みなさん試行錯誤しながら制作に取り組んでいました。

過去2年に比べ、商品化にの可能性が高いものが多かったという今回のショッカソン。3回目の開催ということで、毎回参加する常連メンバーが全体の技術を引っ張っていたり、事前にプロダクトの仕様を学ぶためのワークショップが行われたりということが、今年のショッカソンに繋がっていたのかもしれません。

まだまだ発展の余地がある触覚分野。今後、様々な研究や、今回のようなハッカソンが行われ、挑戦的なプロトタイプが生み出されていくことで、私たちはバーチャルの世界においても、ますますリアリティのある体験をすることができるようになっていくでしょう。今後の発展が楽しみです。

 

 

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