近年SNSを通じて、イラストレーターが作品だけでなく自らをブランディングし、効果的に情報を発信することが重要になっています。その一方で、注力すべきことを見失うと一過性の営業手段となってしまう可能性もあります。それでは、イラストレーターとしてSNSをどのように活用し、また何を大切に活動していけば良いのでしょうか?

そんな疑問にお答えするべく、イラストレーションに関わる3名のトップクリエイターに講演、クロスセッションを行っていただいた本セミナー。これからのイラストレーターに求められるものは何かをお話頂きました。

パネラープロフィール

ヒロ杉山 ENLIGHTENMENT/アーティスト
東洋美術学校卒業後、湯村輝彦氏に師事。その後フリーとなり、1997年アーティストユニットエンライトメントを結成。ファインアートの世界で国内外の展覧会で作品を発表する一方、グラフィックデザイン、広告など幅広いジャンルで独創的な作品を発表しつづけている。

白根ゆたんぽ イラストレーター
広告、雑誌をはじめとした印刷媒体、webコンテンツなどにイラストを提供。近年の主な仕事に「BRUTUS」の本特集シリーズ表紙、GUのSALEビジュアル、radiko「#音ジェニック」キャンペーンイラストなど。http://yuroom.jp

ニシクボサユリ デザイナー/イラストレーター
2010年 三重県立看護大学卒業後、2015年に東京デザインプレックス研究所 空間デザインコース終了。2015年よりInstagramへイラストの投稿を開始。現在はSoftbankやadidas、資生堂など様々なブランドとのコラボ、雑誌、広告への寄稿、展示会の実施など幅広い分野で活動している。http://www.sayurinishikubo.com/

松野 正也 株式会社アマナイメージズ取締役 / クリエイティブディレクター
1995年桑沢デザイン研究所卒業後、グラフィックデザイナーとして2007年に株式会社アマナへ入社、CI/VI開発・制作に携わる。2009年からamanaimages.comのWebデザイン・サイト運営を担当。

庄野 裕晃 vision track 代表取締役
国内外の第一線で活躍するイラストレーターが在籍する日本、ロンドンに拠点を置くアーティストエージェンシー「vision track」代表。FM802、digmeoutと共催し、アジア各国から気鋭アーティストが集結するアートフェア「UNKNOWN ASIA」のプロデューサーを務める。

ヒロ杉山氏「これからのイラストレーターに必要なこと」

SNS時代のイラストレーターに求められる力とは?「CROSS SESSIONS vol.1 # illustration」

(聞き手: ヴィジョントラック 庄野裕晃)

庄野:ヒロさんとは今までいろいろな話をさせていただきましたが、その中で一番覚えているのはイラストレーションの終わりという話を聞いた時です。そのお話は今日の最後にしていただく予定なので楽しみにしていてください。
まずはじめに、ヒロさんのイラストレーターとしての成り立ちみたいなものをお聞かせ願えますか?
ヒロ:イラストレーターの初めの時期、湯村輝彦さんの所で約7年くらいアシスタントをしながら絵具を使って絵を描き続けていました。あの時代のイラストレーターは、まず雑誌の仕事をしてから世の中の人の目に触れるようになり、仕事を得るという形が一般的な流れです。
雑誌の仕事というのはギャラではなく自身のプロモーションに繋がるという意味合いが強く、駆け出しのイラストレーターにもってこいの仕事となります。書きたいものが一番表現できるのもこの時代の雑誌でした。

庄野:雑誌の仕事はどのようにとってくいくんですか?
ヒロ:私は雑誌に売り込みをしていたことはなくて、湯村さんのところに来ていたイラストレーターに作品を見せていました。その人が編集の人に話をしてくださり仕事をもらっていった流れです。
これは参考にならないかもしれないですが、基本的にほめてくれる人に作品を見せていました。テンションが上がりますし、けなされるとテンションが下がるので(笑)

自分がやりたいことをやる時に、取材が来るような流れをしっかりとつくっていました

SNS時代のイラストレーターに求められる力とは?「CROSS SESSIONS vol.1 # illustration」
庄野:お仕事の中でもTHE CHOICEの大賞は大きな転機だったかと思いますが当時のこと覚えてらっしゃいますか?
ヒロ:それはもちろん、大賞をとるまでに30回くらいは出し続けていました。THE CHOICEの第1回目の選者が湯村さんで、たまたま私の出していた100回目の審査員も湯村さんでした。師匠が審査員をやっていたので、わざとわからないように竹屋すごろくって名前で出していてそれが大賞をとることができました。

庄野:コンペで受賞後はやっぱり仕事が劇的に増えたりするものですか?
ヒロ:仕事ではなく、取材が増えて自分の名前が露出する機会が増えました。そうすることで、名前が売れてくる。名前が売れているとそれだけで担保になるんですよ。

庄野:担保ですか?
ヒロ:代理店の人は名前が売れている人を使った方が安心感があります。自分でそういったことが考えられるようになると自己プロモーションの大切さが身にしみるようになりました。ヒロ杉山という変な名前、湯村さんのところで働けたこと、竹屋すごろくという名前で大賞をとったことそれぞれがここでつながります。
湯村さんのところでチャンスや経験が得られ、なおかつ1人のイラストレーターが2つのスタイルで仕事をしていることが印象に残り取材が来る。
その後、近代芸術集団をやっていた時も、後楽園球場のグッズを作った時も、テイ・トウワさんとクラブに出ていた時も、新しくエンライトメントを設立した時も、それぞれのタイミングで取材を受けることができました。今思うとニュースを意識的に作り出したってところもありますが、自分がやりたいことをやると取材が来るような流れをしっかりとつくりプロモーションができていたように感じます

イラストは社会とのコミュニケーションだと思う

SNS時代のイラストレーターに求められる力とは?「CROSS SESSIONS vol.1 # illustration」
庄野:そうした変化の中でお仕事への考え方はどういった変化がありましたか?
ヒロ:Macが出てきたことで、技術が無くてもイラストを描けるようになりました。その時からイラストレーションの時代は終わり、ビジュアルを作るという気持ちで作品をつくるようになりました。
いわゆる作家スタイルを放棄しようと思っていくつかの方法を試し、無限のスタイルを持ってビジュアルを作るという考え方にしていくと同時に、イラストレーションを俯瞰で見ることも大事だと思ってさまざまなことに取り組んできました。
作家は往々にして自分の作品を自分の世界観で突き進めてしまうものですが、イラストレーションは社会とのコミュニケーションだと思っています。あまりにも自分の世界観が強すぎると使いにくかったりコミュニケーションが取りにくかったりと。
僕の最初の頃の作品も今振り返ってみると絵に世界観が強く使いづらいと感じる部分が多々あります。少しイラストレーションというものをプロフェッショナルに考え、最終的に自分で描かない選択をしました。

庄野:最近それを知ってびっくりしたんですけど、ほんとにヒロさん描いてないですよね
ヒロ:そうですね僕の所の優秀なスタッフたちが僕のディレクションのもと描いています。僕はディレクターとして俯瞰で見ることに徹しています。そうすることでイラストレーションに客観性みたいなもを加えることができ、使いやすいビジュアルが作れるようになると思っています。

庄野:イラストレーターって1人で活動されてる方が多いと思うので客観視って難しい作業ですよね。それを自分では描かず作品を俯瞰でとらえるように努力されたと言う事ですね。
ヒロ:それがいいのか悪いのかは別として仕事としては成立しました。作家としての自分の作業は減っているので。

庄野:逆にそれはヒロ杉山として、自由に描けるようになったということでもありますよね。僕自身も非常に人に話したくなるようなお話でした。後半は白根さんも交えて第一線で活躍し続ける為の秘訣をお2人にお聞きしたいと思います。

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