【プロフィール】ピーター・マロー PeterMarlowピーター・マロー
1952年イギリス生まれ。 1986年よりマグナム正会員、2001年-2003年まで会長を務める。パーソナリティーを的確に捉えたポートレート撮影に定評があり、歴代イギリス首相ほか、俳優、アスリートまで幅広く手掛ける。広告ではBritish Airways、Alexander McQueen、2010年ロンドン五輪ボランティア募集キャンペーンなどを手掛けるイギリスを代表するフォトグラファー。 2016年2月21日死没


※この記事はamanaimages.comで過去に掲載されたものです

ピーター・マローさんにお話を伺いました

2016年にこの世を去ったイギリスを代表するフォトグラファー、 ピーター・マローさんの2012年の来日トークイベントでの貴重なインタビューを採録。2001年-3年間にわたりマグナム・フォトの会長をつとめたピーターさんにフォトグラファーになったきっかけから、「マグナム・フォト」の未来までのお話を伺いました。


──フォトグラファーを目指したきっかけを教えてください。

父が写真好きだったこともあり、子供の頃は双子の兄弟と共によくポーズさせられました。そんな遠い記憶が今の仕事につながっているのかもしれません。
自分のカメラを持ったのは5-6歳の時。単純なプラスチックカメラだけどフードレンズとカバーが付いていて、シャッター音も凄くいっぱしのプロみたいでとても嬉しかったのを覚えています。そのカメラで撮影した僕の記念すべき処女作がこの写真です。飼っていた鳥が逃亡した"事件"を記録した写真です—たまたま鳥が写っている訳ではありません!当時から既にフォトジャーナリズムを実践していたんですね(笑)
フォトグラファーという職業を意識したのは、1936年に撮影されたドロシア・ラングの有名な1枚『Migrant Mother(移民の母)』を見た時です、16歳の頃だったかな。ご存知の通り、この写真は世界恐慌勃発後のアメリカの農村の惨状と復興を記録する農業安定局 (FSA) のプロジェクトの一環として撮影されたものです。撮影された5枚の写真はサンフランシスコの新聞社に送られ、翌日新聞に掲載されるや大恐慌の惨状はアメリカ全土に知れわたり、実に2万トンもの食料が寄付されたと言います。"写真は世界を変えられる!"と感動した事件でした。

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──マグナム・フォトグラファーにはどうやってなるのですか?

まず、毎年パリ・NY・ロンドンのいずれかで開催される年次総会でポートフォリオを正会員全員(約50名います!)にみてもらい過半数の賛同を得る事が出来れば"候補生"として認められます。そこからが大変なんです—準会員になるには、正会員の2/3の賛同を得なければなりません。正会員になるにも同様です。僕は6年かかりました。
必要なのは、その人しか撮れない"スタイル"で"ドキュメンタリー写真"を撮影することです。その写真をみれば一目で誰が撮影したか分る・・・そんな独自のVoice(声)をもった写真を撮ることが出来ればメンバーに迎えられますよ!

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──マグナム・フォトでの最初の仕事は?

1980年、北アイルランドのハンガーストライキを取材したシリーズです。当時の北アイルランドは社会的にも経済的にも混乱を極め環境は劣悪でしたが、取材ネタに困ることはありませんでした。マグナム・フォトグラファーとして、常に最新作が最高傑作になるような撮影をしなくては、とプレッシャーの日々でした。でも写真であれ、絵画であれ、小説であれ・・・物創りを職業とする人間にとって、常に進化し続けるためにはプレッシャーは必要不可欠ですよね。
あと、ココだけの話、当時、色鉛筆は必須でした—より良い取材位置を確保するためにプレスパスを偽造するんです(笑)

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──歴代首相をはじめポートレートに定評がありますが、秘訣を教えていただけますか?

フォトジャーナリズムの手法を導入し、単に撮影するのではなく被写体の環境を含めた "人生そのもの"を写しとることが大切です、ワイドショットでね。そのためにはなるべく多くの時間を費やします。このフランスの作家とは一晩かかってホテルのミニバー2つ分飲みつぶしましたよ(笑)
面白いもので、良い人だから良い写真になるわけでは無いんですね。一見、難しい人でも素敵な写真が撮れる時もあります・・・心をオープンにして被写体と自然にリラックスしてコミュニケートすることが大切ですね。

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──愛用しているカメラを教えてください。

以前はマミヤとハッセルブラッドを使用していましたが、今はキヤノンをメインに使用しています。4年前からデジタルカメラも使用しています。フィルム時代には、光がどう作用するかと言った技術はプロの技として自分だけの秘密でしたが、今では誰でもデジタルカメラとフィルタを使い簡単に出来てしまう時代ですよね—それ故に自分にしか取れない"作家性"は大切にしていきたいと思っています。
ちなみに最新の写真集『The English Cathedral』は自然光にこだわり6×6のフィルムで撮影しています。


──ファミリーポートレートが印象的です。

私にとって一番大切なのは"家族"であり、写真を撮るのは人生そのものですから、家族を撮影するのは当然のながれです。そこには、作り物には無い"真実"があります。18年間、息子たちの誕生日を撮り続けており、欧米では広告キャンペーン、書籍の表紙などに使用されています。

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──トリミング厳禁なので広告には使用しにくい印象があるのですが・・・

    写真の"スピリット=魂"を尊重してくれるデザインであれば多少のトリミングは気にしません。
むしろ、トリミングしようがない、そういう写真を撮りたいですね。私のライフワークであり、家族の歴史でもあるので、広告、商品、エディトリアル・・・日本の皆さんがどんな媒体で、どんな風に使用してくれるか楽しみです。


──マグナム・フォトの「強さ」とは?

それは、どんな事があっても"やらせ"は無い――写真を通して真実を伝えコミュニケーションする力でしょうか。広告であれ、報道であれ我々が発表するものは常に"ドキュメンタリー"であり、私たちは時代の証言者である、という誇りです。
メンバーの国籍、年齢、性別、そしてスタイルが様々であるという事もグローバルな展開が求められる昨今の広告業界では強みかもしれません。独自のスタイルを持った多種多様なフォトグラファーがいますからどんなリクエストにも応えられます。
個人的にはマグナム・フォトという集団は、家族みたいなものでしょうか――写真を撮るということは個人的なとても孤独な作業です。自信が揺らぐ時もありますし、壁にぶちあたることもあります。そんな時に、尊敬できる仲間に正直に自分の作品を批評して貰えることほど心強いことはありません。お互いを高め合い、切磋琢磨することで集団としてのマグナム・フォトは常に進化し続けているのだと思います。


──誰もが簡単にカメラも使わずに写真を撮影する時代に「世界最高峰の写真家集団」であるマグナム・フォトが担う役割は何でしょう?

    伝統的な写真をめぐる環境は変容していますが、変化をチャンスと捉え、常に挑戦し続けたいですね。
最近、実施しているPostcards From Americaというプロジェクトでは、SNSを駆使してその土地々でスポンサーを募りモデルを募り、撮影を敢行し、ポストカードを販売しています。既存の媒体に頼ることなく、自らが出版社を立ち上げる人もいます。"時代の証言者である"ということは時代に"対応"して写真を発表することであり、私たちマグナム・フォトグラファーにとって"生きること"="写真を撮ること" です。――マグナム・スピリットは永遠に受継がれると信じています。

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(2012年11月28日 MAGNUM speaks!トークイベントにて採録)

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