過去に歩んできた一歩一歩が、今のクリエイティブに生かされる。
クリエイターにとって、発想の種とも言える、彼らのバックグラウンドについて迫る連載企画。

第一回目は、株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)デザイン戦略室アートディレター/デザイナー 藤永 忠男さんに、お話を伺いました。

“切り開く“スタイルは幼少の頃から

藤永さん:
僕が小学生だった頃、本のページを使って遊ぶ「ゲームブック」が流行っていて、それを自分で作ってみたことがあったんです。最初は友達に喜んでもらいたいと思って作りはじめたのですが、そのうち売ってほしいという人が出てきて、これ、売れるんだ……と、最初はびっくりしましたね。(笑) あと、当時「ウォーリーをさがせ」も流行っていて、これもみんなが喜んでくれるのではないかと思い、両親に頼んで製図用のペンを買ってもらい、授業中ずっと描いていました。それも売るつもりはなかったのですが、売れちゃって。(笑)

― 当時から、自身のクリエイティブを通して周りの人をハッピーにされていたわけですね。高校時代、アメリカに留学されていたそうですが、早い段階でキャリア設計されていたのでしょうか?

キャリア設計はしていなかったですが、漠然と将来そういう事(作る仕事)をするんだろうなと思っていました。僕の場合は、小2の頃から海外に憧れがあって、高校時代はアメリカに留学に行っていました。その後、日本に帰国して大学で広告を勉強していたのですが、WEBが世界に普及していく様子を見て、もう一度ちゃんと勉強したいと思って、当時国をあげてデジタル系の教育が盛んだったカナダに留学し、グラフィックデザインとWEBデザインを学びました。

― その後帰国されて、クリエイティブ・エージェンシーに就職されたのですね。

帰国後、日本の制作会社を探していた時に見つけた、超かっこいいロゴに一目惚れした僕は、このロゴを作った会社に入りたいと思って、ロゴとメールアドレス、クリエイティブ・エージェンシーという情報だけを頼りに問い合わせて、面接してもらい、入社することになりました。そこはハリウッド関連の会社で、元ハリウッド舞台スターや世界的に有名な女性アーティストの振付師など、世界をまたにかけて活躍している様々な人が在籍している会社でした。その中に、何度も映画化されているアメコミを描いていた人がいたのですが、彼は私が一目惚れしたロゴを作った本人で、その会社ではその人に習いながらイベント領域、WEB、映像編集……と総合的に行い、様々なグローバルクライアントの仕事に携わらせてもらいました。そのあとは誘われるがまま、自分がいいなと思ったら入るスタイルで転職し、今に至ります。

 

DeNAロゴ

ロゴ制作で経験したスクラップ・アンド・ビルド

― 大中小の制作会社やクリエイティブ・エージェンシーを経て、2012年DeNAに入社されていますが、過去に働いてきた企業と比べて、DeNAに属するギャップはなかったのでしょうか?

DeNAで働いていた人に声をかけてもらったのが、入社のきっかけです。「今のDeNAのイメージを変えたいけど、僕にできることある?」と、ざっくばらんにDeNAについて話していたら「沢山やれる事あるよ」と言われたので、じゃあ入る……といって。(笑)

そしたら入社してすぐにタイミングよく、DeNAのコーポレートロゴを変えることになっていて。それに伴って、ちょうど同時期に入社したアートディレクター/デザイナーとタッグを組んで、コーポレートサイト、パンフ、名刺など、コーポレートブランディングにまつわる様々なツールのデザインを担当しました。

ロゴのリニューアルは過去にも担当したことがあったのですが、会社の中で0から新しいコーポレートブランドを作るという経験は過去にありませんでした。どういったプロセスで、どのように社内に説明して、何をもとに決定していくのか、外からは絶対に見えない部分を見ることができました。例えば、ネーミング一つつけるにしても、法務、広報などを通さないといけなくて。なんとなくわかったつもりでいましたが、実際にかかる時間やフロー、どのようなやりとりが発生するのかをリアルに経験する事ができて、新鮮でしたね。なによりも、大きな企業の今ある物を壊して、一から作り上げるというのはなかなかできない貴重な経験だったと思います。

 

DeNAロゴ

DeNAロゴ

 

― コーポレートロゴのリニューアルとなると、いろんな稟議を通す必要がありそうですね。

まさに、法務、広報、総務、経理、人事、カスタマーサポート、社長室、各事業部……と、社内のあらゆる人々とコミュニケーションをとりました。入社してからすぐにいろんな部署の人と関わりが持てたので、結果的にものすごく短期間で会社のことを知ることができて、ラッキーでしたね。

 

藤永さんインタビュー

社内に定着していったデザインの重要性

最初はマーケティング部という所にアートディレクター/デザイナーとして所属していたのですが、専門的な部署としてデザイン戦略室が立ち上がり、今はそこに所属しています。入社したばかりの頃のDeNAは、ブランディングやプロモーション領域を社内で全くやっていなかったので、制作会社でさまざまな企業のプロモーションを行ってきた経験を生かして、同時期に入社した仲間と一緒に、まずゲームのプロモーション制作に力を入れました。TVCM、イベント、リアルタイム施策、デジタルなど……いろんな切り口のものを、一つのプロモーションとして成功に導いていくという事に注力し、取り組んでいきました。入社してから、エンターテインメント、スポーツ、オートモーティブ、ヘルスケアなど……新しい事業が続々と立ち上がり、新規サービスのデザインはデザイン戦略室が担当する、という流れができていきました。

― それまでは外注されていたものもあったのですか?

そうですね。デザイン戦略室という部署ができてからは、社内の人にデザインをより身近に認識してもらえ、重要視してもらえるようになりました。今まで外注していたものもデザイン戦略室に頼まれるようになったんです。もちろん場合によっては、外部のスペシャリストの方に任せたほうが良い場合もあるので、外部にお願いすることもあります。そこは最適解を出すために臨機応変に、ですかね。以前のDeNAでは、正直なところデザインは二の次だという風潮があったんですが、デザインの質が低いともちろんサービス全体の質が落ちてしまうわけで。今はいろんな人の努力で以前よりも組織マネジメントがよりしっかりしてきたし、社内の「デザイン」に対しての認識が良くなっているという風に感じます。各新規サービスの立ち上げでロゴやネーミング制作に携わっていると、企業ロゴを最初に作った時に一緒にやっていた部署の人たちとまた関わったりして、あ!あの時の!と、ちょっと嬉しくなったり。そんな感じで楽しく仕事しています。(笑)

藤永さんインタビュー

― 風通しのいい感じが伝わりますね。
デザイナーの関わる仕事の領域って、会社によってまちまちだと思うんですが、DeNAさんではどこまで担当されるんでしょうか。

そういう意味では、デザイナーの役割についての定義はされていないです。見た目、使い勝手、体験といったデザイン、マーケティング観点、ビジネス視点で入っていく場合もあります。サービスのアイデアを出すのもデザイナーだし、運用を行ったり、ネーミングもデザイナー。見た目に起こす、ディレクションする、できる人はプログラミングまでやっちゃう。反対に、自分の領域を絞って、専門性を高めている人もいます。そこはある程度の裁量が与えられています。自分でやりたければどこまででもやれる、といった感じです。

 

社内完結だからこそ見えたクリエイティブ進行

― 最近担当されたクリエイティブを教えてください。

「ロボネコヤマト」のロゴやロボネコストア全体のアートディレクションなど、オートモーティブ事業のブランドツールをいくつか担当しました。

 

ロボネコストア

ロボネコストアはヤマトホールディングス株式会社の商標です(商標登録出願中)

ロボネコストア

 

今現在はゲームプロモーションの他に「AndApp(アンドアップ)」のアートディレクション、デザインを行っています。AndAppというのはスマホゲームがPC上でプレイできるプラットフォームです。スマホゲームをどっぷりやっている人って、Twitterを追いながら攻略サイトを見つつ、YouTubeで攻略動画再生して……みたいな感じで、いろんなものを立ち上げて同時に進行するんですよね。なので、PCでプレイできるサービスが誕生したことによって、AndAppはスマホゲームがよりはかどるツールになっています。AndAppクライアントをインストールすると、そのゲームに紐づいたTwitterやYouTubeが出てくるようになっています。

AndAppロゴ

Andapp

― 同時進行で効率的にやりこみたい人には、まさに神ツールですね!

そうですね。スマホゲームを2画面同時に立ち上げる事もできるわけですよ。スマホ版と違っていいところは、落として画面が割れないところ。(笑) 発熱しないし、充電がなくなることもない。セーブデータの共有ができるので、家ではPC、通勤時間はスマホでプレイ、という新しいプレイスタイルでより効率的に楽しむ事ができます。スマホゲームを有意義に、もっと楽しめるように今現在も鋭意開発中です。

今はブランディングとプロモーションの2軸でやってるので、会社のメンバーがなにかコンテンツを作って、それをどのように良くしていくか、どのように見せていくのかを、任せてもらっています。ブランディングといっても見た目や使い勝手だけをデザインするといった可視化部分だけではなく、より全体的に状況把握・現状分析・定義・プランニング・展開・運用といった、一般的な基礎部分も含めビジネスサイドと一緒に作り上げている認識です。

 

ひとさじのチャレンジ要素を

― 仕事を進める上で、心がけていらっしゃることはありますか。

制作会社にいた時から、心がけている事は“楽しむこと”ですね。 一番最初に入った会社で教わったのが、自分が楽しんでいなきゃその先の人には伝わらないから、ちゃんと楽しんで物を作れと。あとは、なにかを作りあげるという時に、まず目の前の人に喜んでもらうこと。目の前にいるチームメンバーでさえ喜んでもらえることができないのであれば、その先にあるサービスの責任者も、ユーザーも、株主も、みんな喜んでくれないと思うので。常に念頭に置いてあることは、楽しむこと、喜んでもらうこと、そして健康であること。体は資本ですから(笑)。

あとは、新しいチャレンジを作るもののどこかに入れることを意識していますね。同じようなものを作っていると経験値は溜まるけどおもしろくないので、自分の中でなにかしら1つはチャレンジ要素を入れています。このプレゼンは前もやったから、今回は違う形でやってみよう、とか、ここのイメージは普通の写真ではなく空撮で撮ることで最適化されるから、やったことないけどやってみようとか(笑)。どんなことでも、自分の中でなにかしらチャレンジをして楽しんでいます。

藤永さんインタビュー

今思う、若手時代にすべきこと

― PORTFOLIOの読者の中には若手クリエイターの方もいらっしゃるので、なにかアドバイスをいただけますか。

よくチームの人と話してるのは、いろんな経験をしたほうがいいってことですね。スポーツ、旅行、食べ歩き、何でもいいんです。必ずどこかでそれらの経験が活きてきますから。例えば、接客のアルバイトとかもいいと思います。サービスを作る人間として、ユーザー心理・行動・感情など顧客視点も知ることができると思います。あとは、いつ、誰が、自分の携わるサービスのお客様やクライアントになるかも分からないし、困っているときは助けてくれるかもしれないので、常に人とのコミュニケーションを大切にして、良好な関係でいたいと思っています(笑)。

 

― 社会人として重要な事ですね。

人づきあいとバランスが大事ですね。僕は小さい頃全然しゃべらない子どもだったんですが、高校3年間、アメリカ南部の寮生活で、治安の問題で外に出れなくて(笑)。ずっと寮にいてルームメイトとひたすらしゃべっていました。それが少なからず今の仕事に活きていると思います。コミュニケーションがとれると、多くの人を巻き込むことができて、物をつくる時の座組みや、スケジュール調整、お金をどこから持ってきてどのように動かすかなど、デザインに関わるそれ以外のところでも役立ってきます。

 

― いろんな職業に共通する大事な要素ですね。デザインについては、何かありますか?

とにかくたくさん良い物を見ること。感性を鍛え、磨く、試す。ただ、私自身はここ2、3年、デザイン関連のサイト、アプリ、スライドシェアとか流行を押さえる程度であまり見なくなってしまったんですが、旅行に行って街中を見るのは好きです。看板とか広告もですけど、人の服装やドアノブ、街灯、スーパーにある商品、パッケージデザインが気になることも……常に目に入るあらゆるもののデザインを見ているので、なんでそんなにキョロキョロしているの?とよく聞かれます(笑)。家には溜めた膨大な量のデータがありますが、たまに見返す程度で完全に収集が趣味となっています。デザインの引き出しを増やした結果、提案の幅が広がり、考える時間に割くことができて、手を動かす作業やクオリティアップに専念できます。あとアウトプットがすごく早いと言われます(笑)。

 

― クリエイターというと、人によっていいものを作ればそれでいいと考える人もいれば、ビジネスを意識してる人もいるかと思います。どんな風になった方がいいというアドバイスはありますか?

飛びぬけて良いものを作りたいのなら、一点突破でいいと思います。ダントツであれば、何も言われないっていう。だからデザインよりであってもビジネスよりであってもどちらでもいいとは思うんですよね。ただ、両方やることは大事だと思います。片方に偏ると誰のためのものでもなくなりますからね。

藤永さんインタビュー

 

― これからやりたいことについて教えてください。

今まで通り、ブランディングやプロモーションもやりつつ、新しい領域に踏みこみたいです。全く新しいことにもチャレンジしたい。分からないですけど、例えば、今後近い将来にVRでゴーグルをつけなくても仮想空間が見られるようになったとして、その時のデザインを作ったりとか。誰も見たことのないものを作って、多くの人を喜ばせていきたいです。Delight and Impact the Worldなので。

 


幼少時代からあらゆる方法で自分の好きなことを形にされてきた藤永さん。自分のインスピレーションを信じて突き進むことが、結果的に多くの人を喜ばせ、巻き込み、道を切り開く結果につながっている印象を受けます。
どんな些細なことに関しても常に新しい試みを忘れずにチャレンジされる姿勢に、自分と周りの人々を楽しませていくワークスタイルのヒントがあるのではないかと感じました。

 

Profile:
Tadao Fujinaga
Art Director, Designer
2012年 DeNA 中途入社。
大学卒業後、カナダへ留学してデザインを学ぶ。日本帰国後に、大中小のクリエイティブエージェンシーや制作会社で、主にデジタル・紙・イベント領域の制作経験を経て、DeNAに入社。ゲームのプロモーションや新規事業のブランディングに従事する。