クリエイターではなくても、PCで文書を作ったり、メールやチャット、ゲーム画面で入力したりと、デジタル時代にフォントを日常的に使わないという方はもはやいないのではないでしょうか。毎日の生活の中で印刷物やデジタル媒体で読むだけではなく、『書く行為』を通じても日々のお付き合いになっているフォント。そのフォントを制作しているメーカーは国内外に何社もありますが、今回参加したのは世界最大級のフォントメーカーMonotype(モノタイプ)社が毎年開催しているイベント『Type&』。今年は10月21日(金)、22日(土)の2日間でしたが、1日目のセミナーに参加し、フォントの奥深さ、面白さ、そしてゲームの中でのフォントの歴史など盛りだくさんな内容に、文字の魅力再発見の一日でした。

 

フォントでここまで変わる!伝えたい雰囲気が伝わる文字のカスタマイズとチョイス

最初のセミナーは『ここが知りたい、フォントのカスタマイズの実際』と題して、コーポレートクライアント向けに既存のフォントをカスタマイズや改変して制作することについてのお話。スピーカーは、ヒラギノ明朝やAXISフォントの欧文を設計したことでも知られ、日本における欧文書体設計の第一人者と言われる小林章氏。現在はモノタイプ社のタイプ・ディレクターとして書体設計のディレクションなどを行っている小林氏ですが、企業や製品のブランドに合ったフォントを開発する時、既存のフォントをベースにして、楽しさであったり、精緻さであったり、表現したい内容にあわせてカスタマイズをする、言わばセミオーダーのフォント制作についていくつかの事例と共にご紹介いただきました。

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残念ながら実際のスライド全てをここでお見せすることができないのですが、例えば某スーパーマーケットからのオーダーではチラシ、店内POP、自社トラックの荷台側面などあらゆるところに使用するフォント制作で、楽しい雰囲気を演出したいという希望がありました。ベースとなるフォントとして指定されたのは、偶然にも小林氏が開発したフォント、小林氏としては、自身がデザインしたフォントを、自身でカスタマイズして納品するということになったわけです。楽しさの演出として、フォントに使われているパーツパーツの四角いところを丸く、例えば元のフォントでは『!』の下の点が四角いのですが、そこを丸いデザインにするなどの改変を加えていきます。基本アルファベットとベーシックな記号を並べた上で、雰囲気を変えるもの、変える場所を選び、変更していきますが、カスタマイズ案件では文字によっては元のままのものもあります。それでも、全体を並べた時、あるいは文章やタイトルに使って見た時に雰囲気がガラリと変わるのには驚かされました。

また、ヨーロッパの企業には、ビジネスの展開エリアが広範囲にわたるところもめずらしくなく、当然求められるものも、欧文と一言にいっても、様々な言語圏のものが含まれてくる場合があります。例えば主にスラヴ諸言語(ロシア語など)に使われるキリル文字も含んでのカスタムオーダーの場合、タイプ・ディレクターがそれぞれのエリアのネイティブ書体デザイナーと協力しながら、細かなところまで調整をします。それは、文字は美しさと共に情報伝達をダイレクトに担うものですので、それが読み手にとって自然なものか、読みやすさを損なうようなものではないか、ということが常に大切になるためだそうです。どのようなコミュニケーションをしたいか、そのために最終的にどんなフォントにしたいかという姿が見えていて、バリエーションをどう使い分けて、どう演出したいか、ということが分かっていて、初めて目的に適ったカスタマイズが、実現したかった演出ができるようになるものだということが俯瞰的に伝わってくるセミナーでした。

 

ゲームとフォントの長~い歴史と深~い関係

続いてのセミナーは『ゲーム屋さんと文字  バンダイナムコスタジオ × Monotype』、 スピーカーは株式会社バンダイナムコスタジオより指田 稔氏、鈴木 貴晴氏、大和 宣明氏。子供のころ100円玉を握りしめて、少しでも上手くなって長く遊べるように熱中した懐かしいゲームの数々も、当時の画面でスクリーンに登場し、会場のある年代以上の参加者からは熱い視線と静かな歓声とがスクリーンに送られていました。

今回のセミナーの歴史は1979年から始まりましたが、当時のゲームでフォントを使っているところといえば、スコア表示部分や、BONUS、CREDITといった極めて基本的な情報伝達部分くらいで、通称『アタリフォント』と呼ばれるものが使われていたそうです。アーケードゲームは、ゲームセンターだけではなく当時喫茶店でもテーブル代わりに置いているところが多かったくらいですので、その大きさはモニター部分だけでも2人分のランチを乗せられるくらい。ただ、そんな大きさで表現していた内容を現代の技術で表現すると、なんとスマートフォンのアイコンと同じくらいの大きさで表現できてしまうのです。ドットの大きさ、確かに小さくなりましたよね。

ゲームで大切なのは世界観。ただ遊んで楽しいというだけではなく、そこに世界観があり、そのゲームが紡ぎだすストーリーに引き込まれてゲームを楽しむ、ということがいつの時代も大切にされてきたことで、その想いがユーザーを引き付けるゲーム開発につながってきたのだと思いますが、画面でできる表現が技術的に限られていた時代には、ゲームのタイトルロゴデザインで思いっきり世界観を伝える努力をし、結果、可読性の優先度は下げられてしまったのではないか、とのことです。フリガナもなぜかなく、子供たちは絵としてでゲーム名を認識していたのかもしれないですね。

時代は進み、技術も進み、ゲームの画面上で表現できることが飛躍的に進歩していく中で、ゲーム自体もまた複雑になり、ゲームの中でプレイヤーに伝達する情報量も飛躍的増えていきます。 家庭用ゲーム機の普及も進みゲーム文化が発展する中、プレイ中にパッと情報認識できるかということが俄然重視されるようになってきました。ただ、ゲームの世界観はやはりゲームの命ですので、可読性、視認性とデザインの両立というものが求められる様になり、ゲームの世界観に合わせたフォントの開発もゲームデザイナーが追う重要任務になってきたのです。

monotype_3*スクリーンに表示されているゲームタイトルロゴは、全て旧ナムコ(現:株式会社バンダイナムコエンターテインメント)による製品(ゲーム)のものとなります。

家庭用ゲーム機のスペック向上は、並行してアーケードゲームのさらなる進化にもつながっていきます。まるで巨大カプセルのようなゲーム筐体はモニターがほぼ半球体で、まるでオールビューモニターの操縦席に実際に搭乗しているような球体画面は、正面に重要な情報が分かり易く、側面に近いところには重要度の低い情報が表示されることにはなりますが、可読性と視認性を考えたフォントの選択あるいは制作、大きさや配置などをテスト筐体で何度も試されて実機投入されます。そしてそのノウハウはVRのゲーム開発にもつながっていくものとなり、レンズに投影する仕組みからくる画像の歪みや、3D空間への表示による課題、ライティングや背景エフェクトの影響を受けやすいこと、また白色が膨張してしまうなどの理由から今までのノウハウが通用しないVRゲームにおいて、最終的には涙ぐましいまでの検証に検証を重ねることで、どのようなフォントをどの部分に採用するかが決定されていきます。

ゲームは国境を越えて世界に広がっていきますが、情報量も多ければチャットも行う最近のゲームではそれぞれの国のユーザーにとって適切なフォントが使われていることも大切な要素となってきています。ゲームの世界観を損なわず、それでいてその国の言葉・文字として自然な書体デザインであり、視認性も担保されている、それらの条件を成立させることも、世界それぞれの地域でゲームが広まっていくかどうかという点で重要な要素になってきている様です。

 

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