株式会社アマナイメージズが運営するゲーム向けストック素材販売サイト「CARTA(かるた)」が開催する、ゲーム業界に携わる皆さまに情報交換や交流を目的としたイベント「meetup CARTA」。

2回目の開催となる今回のテーマは「スマホゲームにおけるUIUXデザイン」。数多くのスマホゲームが次々とリリースされる昨今、デザインや操作性の重要度は増すばかりです。スマホゲーム市場の第一線で活躍されております、株式会社サイバーエージェント鷲山氏、株式会社モブキャスト坂本氏、株式会社DeNA Games Tokyo楠氏にそれぞれご登壇いただき、UIUXデザインのルールや工夫などをお話しいただきました。

 

 

「なぜいまスマホゲームのUIUXに向き合うのか」

株式会社サイバーエージェント UIUX Lab代表/株式会社グレンジ 取締役CCO 鷲山 優作氏

株式会社サイバーエージェント UIUX Lab代表/株式会社グレンジ 取締役CCO 鷲山 優作氏

 

スマホゲーム市場規模が大きく、いまだに成長を続けている
スマホゲームの市場は大きく成長を続けており、現在国内だけでも 1 兆円規模に迫っています。スマホゲーム市場というのは、初めは中小のデベロッパーが育ててきましたが、市場が拡大していく中で大手・海外ゲーム会社が参入してきて今のような大規模な市場が出来上がりました。そうした背景もあり、開発のチャンスは誰にでも平等にあります。この規模で開発チャンスが平等にある市場は他にないのではないかと思いますので、大きなプロダクト開発に関わることが可能です。

「meetup CARTA#2」開催レポート【スマホゲームにおけるUIUXデザイン】

スマホゲームは性質上 UIUX デザイン力向上に向いている
UIUX デザイン力は試行錯誤が一番大事であると考えています。試行回数を増やし、決定・決断を繰り返すことでデザインの精度は上がっていきます。スマホゲームは、リリース後も運用していくことが多いので、設計段階から運用を視野に入れなければなりません。そのため、考えなければならない要件が数多く存在します。またユーザーからフィードバックを直接得る機会も多く、リリース後にも改善を重ねることができ、プロダクトをユーザーの方の反応をみて、最適な形に変えていくことができます。企画・開発・リリース、運用段階まで、スマホゲームは試行錯誤を繰りかえすことができるので、自然と UIUX デザイン力が向上すると考えられます。

 

ゲームにたまっているノウハウ(ゲームニクス)を学習することができる
ゲームは一度はまると子供から大人まで、国籍を問わず、自ら進んで毎日長時間熱中してしまう性質を持っています。そのため熱中するノウハウが蓄積されているメディアとも言えるかもしれません。サイバーエージェントでは、スマートフォンゲームに最適なUIUXについて研究する組織「UIUX lab」を立ち上げており、ゲームニクス提唱者のサイトウアキヒロ氏がアドバイザーをしてくださっています。「ゲームニクス」とは、ゲームにおける「人を夢中にさせるノウハウ」を他分野でも活用することで、ノウハウは 5 つに分かれると提言しています。それらのノウハウをもとに、スマートフォンゲームにはどんなUIUXが最適なのかなどを日々考えています。今日は、その5つのノウハウについてご紹介します。

■ゲームニクス【おもてなしの文化】
さりげない、気づかれない心遣いが大事
1.直観的で快適なインターフェース・・・ユーザーの行動を予測し操作ボタンなどをデザインする工夫
2.マニュアル不要のユーザビリティ・・・A ボタンが決定 B ボタンがキャンセルなど約束ごとの整理
3.はまる演出・・・ゲームテンポ、効果的なムービー演出等
4.段階的な学習効果・・・躓かないようにレベルアップさせる、またはわざと躓かせ目標を持たせる工夫
5.リアルとバーチャルのリンク・・・バーチャルなゲームをよりリアルな世界にリンクさせるための工夫

 

まとめ
・大きな市場で平等に勝負ができる
・試行回数を重ねることで UIUX デザイン力が向上する
・ゲームにたまっている熱中するノウハウを吸収することができる
 


 

「シリーズを越えて試されるUIUX」

株式会社モブキャスト D3企画部 部長 坂本 康朗氏

株式会社モブキャスト D3企画部 部長 坂本 康朗氏

ゲームにおけるUIとは?
ゲームにおけるUIとは、ユーザーとゲームにおける接点、接触面である為、視覚や画面表示に限られた事ととらえられがちですが、聴覚、触角を含めた3点を通じてお話しいたします。


 
LUMINESパズル&ミュージック
私が携わったゲームである「LUMINESパズル&ミュージック」で具体的にお話しいたします。このゲームはその名前の通り、パズル・ビジュアル・ミュージックが加わった、いわゆる落ちゲーと呼ばれるパズルゲームです。

 

LUMINES PUZZLE & MUSIC(パズル&ミュージック)PlayMovie

 
LUMINESは「かつてないほどの没入感あふれるプレイ感覚」と呼ばれる程の没入感が最大の特徴です。その没入感はどこから生まれるかというと、
視覚:ビジュアル・エフェクト
聴覚:サウンド・BGM・SE
触角:操作感
上記を全て丁寧に作り上げることで、音楽を演奏しているかのような感覚でパズルゲームを楽しむことができています。


 
家庭用ゲーム機からスマホに移るときのUIUX
LUMINESは元々家庭用ゲームで出していたタイトルなので、スマホに移行するときには同じ操作性が求められました。その為に大きく実行したことは「直観的な操作性を目指した画面の向きの変更」と「全てがサウンドに連動した演出」です。その二つを詳しく解説していきます。
 
■直観的な操作性を目指した画面の向きの変更
LUMINESの元々の画面は横向きでしたので、スマホで同じように再現する為横画面で開発を始めました。しかし、開発していく中でコントローラーと同じような操作感をスマホの横画面にし、タップ・スワイプで表現するのが難しくなってき、縦画面でもプロトタイプを作成しユーザー調査を開始しました。ユーザー評価では今までの横画面のイメージを払拭することができなく辛辣な意見もたくさんいただきました。しかし、調査を進めていくと画面の向きがユーザーの不満ではなく、スワイプ、フリップの誤操作が原因である事に気がつきました。それからは画面の向きにはとらわれず、指の可動範囲と動く向きを考慮する事、思い通りの場所にブロックを動かせる事を第一に考え、現在の縦画面でのUIUXとなりました。
 
まとめ
・シリーズだからと言って今までの構成とらわれない、過去の常識を疑う勇気
・プロトタイプではあるのでユーザーが答えを知っているとは限らない。調査、ユーザーのアンケート結果に振りまわされない。
・UI(画面の向き)は操作性が最適であることが前提で開発を進めなけらればならない

「meetup CARTA#2」開催レポート【スマホゲームにおけるUIUXデザイン】
 
■全てがサウンドに連動した演出
LUMINESにとってサウンドは最も重要なUIとなりますが、その中でもSEとクオンタイズ(音がなるタイミングをBGMのテンポに強制的に合わせる機能)が大事なコア機能となります。LUMINESでは効果音とBGMのテンポが合うことで演奏している感が演出されています。
そこに楽曲に合わせたアニメーションが流れることで、サウンドに連動した演出をユーザーに見せることが可能となっています。そうした連動で意味が生まれ、意味が生まれることで世界観の理解が進み、世界観の理解が進むことでゲームへの没入感につながっていきます。


 
モブキャストでの取り組み
モブキャストではゲーム共通機能を研究開発するプロジェクトがあります。それは、Untiyでゲーム開発をするときの共通言語を作ることです。というのもUIUXというのはデザイナーだけではなく、職種関係なく考えていく必要があります。そこで共通言語を定義していくことで、認識の共有がスムーズに行われ開発のスピードも大幅に上がり、気持のよいUIUXを作っていくことにつながると考えています。
 

 

「ゲーム開発にプロトタイピングが有用な件」

株式会社DeNA Games Tokyo デザイン部 部長 / クリエイティブディレクター 楠 薫太郎氏

株式会社DeNA Games Tokyo デザイン部 部長 / クリエイティブディレクター 楠 薫太郎氏

 
そもそもプロトタイピングとは?
ゲーム開発の現場でツールを使ったプロトタイピングを導入してみて有用なことが多く、今後も活用できるのではないかと感じています。そもそもプロトタイピングとは「プロダクト開発に関わるメンバーの脳内イメージを共通化すること」だと考えています。
一緒に開発をする仲間はプランナー、エンジニア、クリエイターと様々な職種があり、考える脳内イメージは1人1人異なります。その脳内イメージを共通化することができればプロダクトの品質や開発スピードが大幅に向上されると思っています。


 
スマホゲームの現場でプロトタイピングの有用性とは?
スマホゲーム開発は、コンテンツボリューム、画面遷移、開発仕様、様々な機能の関係性、運用を盛り込んだ設計、と考慮するべき点が多く、とても大変です。このように大変なスマホゲームの開発で、私が一番解決したかったポイントは、資料上では企画内容や仕様の認識が合うのに、UIやインタラクションになってくると認識が合わないところです。企画や仕様の時点ではモノ(企画書、仕様書)があるので、ある程度認識は合いますが、UI 設計のフェーズになった時点ではモノ(実際のデザインや実際に触って動くプロト)がないので全員のイメージがバラバラになってしまいます。そこで共通認識になるモノを作ればいいじゃないかと思いついたのがプロタイピングツールです。

「meetup CARTA#2」開催レポート【スマホゲームにおけるUIUXデザイン】
AdobeXD や prott などのプロトタイピングツールをゲーム開発で使用した実例がなかったので、試験的にやってみた結果、インタラクションを細かく実装でき、実機で手軽に確認することができ、ゲーム開発の現場においても非常に有用だと感じました。また、実機確認をエンジニアに頼ることなく簡単にデザイナーのみで完結することができるのも非常に大きなメリットだと考えます。


 
まとめ
・仕様策定段階からプロトタイプを共有できたことで、考慮漏れを事前に防ぐことができた。
・実際にユーザーが触れるものに近い状態のものが作れ、プロダクトのブラッシュアップ工数の捻出につながり品質が向上した。
・メンバー内のイメージ共有が具体的にできたので洗い出しが早くなり、開発スピードが上がった。
・余計な作業のやり直しが少なくなった。
 

パネルディスカッション「スマホゲームUIUXデザインの 今とこれから」

パネルディスカッション

後半は登壇者同士が気になっていること、参加者からの質問内容をそれぞれ皆様にお答え頂きました。
 

 
Q:最近UIUXの視点でとがっている、優れていると感じたアプリ・ゲームはありますか?
楠氏:モンストの幽々白書のコラボ CMやキャンペーンは「かなり尖っているな。」と思いました。
いつか私もあのようなUXを設計してみたいですね。
 
坂本氏:遊戯王デュエルリンクス、海外の方にお見せすると子供向けに見られがちだが、30代がはまってしまうゲームです。遊戯王世代が懐かしむことができ、欲しいものがジャストであるゲームに思えます。
 
鷲山氏:HIDE AND FIREはスマホで快適にプレーできるのはすごいと思います。白猫テニスもスマホであれだけのアクションを出すのはすごいです。こういったタイトルが出てくることで、スマホのゲームはタップするだけのアクションから、次の世界が広がって行くことを感じられる素晴らしいタイトルであると思います。


 
Q:UIUX論の社内での布教はどうしていますか?
鷲山氏:フィーチャーフォン、スマートフォンとデバイスが変化する中で、スマートフォンの時代になってしっかりと UIUX をやらないと通用しない時代になったと思います。そんな中で市場の流れや時流を組織全体に伝えていくことが大事です。サイバーエージェントがUIUX Labを設立したのも、それが目的の一つで、改めて社内に対しても情報を発信できるようにしています
 
楠氏:先に鷲山さんがおっしゃっていたように、スマホゲームはものすごく大きな市場になっていて、チャンスは平等にある世界になっています。その分クオリティの高いゲームを作るのが大事になっていることを丁寧に社内に伝えるようにしていて、UIUX論そのものを布教するようなことはしていないです。最終的には良いプロダクトを作る手段として存在しているのがUIUXの考え方だと思っています。
 
坂本氏:モブキャストにはUIUXデザイナーいないので、プロデューサー・プランナー・デザイナーがそれぞれ担っています。専門の部署を作って社内布教をやってかなければならないと考えており、現在の仮題となっています。


 
Q:そもそもUIUXの専用の肩書の方はいらっしゃいますか?その方の役割は?
鷲山氏:UI デザイナーという肩書の方は UI の設計、グラフィックのデザインがメインの仕事となっています。しかし UI は関わる部分が多いので、演出、ビジュアル、アイコン、アプリのプロモーション等、やりたい領域は個人に任せて広げて行けるようにしています。
 
楠氏:UI に関しては担当する領域が広く、組織やタイトルによって役割が異なってくるので、ヘタに定義してしまうと逆にやれることが制限されてしまう可能性があるので、そこはあえて定義をしないようにしています。 


 
Q:横断的なUIUXデザイナーの成果はどのように評価されていますか?
楠氏:「どんなアウトプットを出しているのか」ということを重点的に見ることが大切だと思っています。これから実施しようと思っているのが、その期の仕事(自信作) 3点程度を持ってきてもらって、自分の仕事に対して「なぜそれを作ったのか」「どうつくったのか」「作った結果どうなったのか」などのプロセスもプレゼンテーションしてもらい、それをアウトプットとして評価していくことを考えています。


 
Q:UIUXは色々な人が絡んでしまっている分その人個人の評価は難しくないですか?
鷲山氏:事業成果と個人スキルの 2 軸で評価するようにしています。また、個人評価を自己評価だけでなく、周りの評価も加味して評価するように努めています。自分の評価と周りの評価をすり合わせ、こまめに追っていくことで自己評価との乖離がなくお互いが納得いくようにしています。


 
Q:今後スマホのゲーム市場、UIUXデザイナーはどんな活躍できそうですか?
 

「meetup CARTA#2」開催レポート【スマホゲームにおけるUIUXデザイン】

楠氏:鷲山さんがおっしゃっていた「おもてなし」という言葉は非常に共感いたしました。ゲームは色々な決定が必要なので非常に設計が難しいと思います。そんな中でユーザー目線を持ったおもてなし精神、サービス精神を持っている人は非常に向いている、活躍できる人だと思います。
 
鷲山氏:私は非ゲーム業界からきている人間ですので、特に感じるのは、昔体験した「楽しかった」という原体験をそれぞれ自分の言葉で言語化できる人は向いていると思います。缶けりや色鬼等の昔遊びなど何でもいいのですが、自分の楽しかったという原体験をなんで楽しかったのかやどこが楽しかったなど言語化し人に伝えることができれば、楽しさを表現することができると思うので、向いていると感じます。開発は大変なので最後まであきらめない人も向いていると思いますね。
 
坂本氏:技術は誰でも伸ばすことができるので、やっぱりゲームに興味がある人にしかゲームを作ることができないと思います。ゲームジャンルは関係なく、ゲーム自体に興味を見出し楽しむことができる人が向いていると思います。

 

まとめ

スマホゲームの今後や社内での立ち位置、社内での評価方法まで、皆様踏み込んだところまでお話し頂きイベントは大盛況で幕を閉じました。来場者はイベント全体を通して、今後どのような運営、どのようなゲーム、どのようなビジュアル、どのような人材が求められているかを感じることができたかとおもいます。
 
「meetup CARTA」はこれからも定期的に行っていきますので、次回も皆様にとって有益な内容をお伝えできるよう、準備して参ります。